ウイルス感染後にマラソンなどの激しい運動をすると、運動のタイミングによって抗ウイルス免疫力を高めることもあれば低めることもある、と京都大学の研究グループがマウスを使った実験で明らかにした。人間についても、また新型コロナウイルスなど多くのウイルス感染についても当てはまるかはまだ不明だが、感染予防に重要な免疫力と運動の関係を詳しく解明する上で貴重なデータになりそうだ。

適度な運動は健康維持に大切であることは間違いないが、研究グループによると、長い時間の激しい運動後に風邪をひくなど、運動が抗ウイルス免疫力を低下させる可能性が指摘されていた。その一方で激しい運動をしている人の方が風邪はひきにくいことを示すデータもあったが、どちらが運動と抗ウイルス免疫力の関係に近いかは未解明だった。

京大大学院医学研究科の足立晃正助教(研究当時、現・京都医療センター医師)、本田哲也講師(同、現・浜松医科大学教授)、同椛島健治教授らの研究グループは、ヘルペスウイルスに感染させたマウスを使って激しい運動と抗ウイルス免疫力の関係を調べることにした。

実験では、マウスにウイルスを感染させた後、人間のマラソンによる負荷を参考に、ケージの中で踏み車の回転速度と踏ませる時間などを決めてマウスに踏ませ、「激しい運動」に見立てた。

その結果、ウイルス感染から8時間後に長時間激しい運動をさせたマウス群は、抗ウイルス免疫力が高まってヘルペスウイルス感染症状が軽減した。一方、感染から17時間後に同様の運動をさせたマウス群は、逆に免疫力が低下して感染症状が悪化したことを確認した。

また、運動中に血液中の免疫細胞がどのように変動するかを調べた。すると、運動中に抗ウイルス免疫細胞である「形質細胞様樹状細胞」(pDC)が血液中から骨髄へと移動し、血液中のpDC数が一時的に減少。このため感染部位に集まるpDC数が低下して、十分に抗ウイルス機能を発揮できず、このことが感染症状を悪化させることが分かった。

運動が終わってから6~12時間後には血液中のpDC数は一時的に増加、感染部位に集まるpDC数も増加し、抗ウイルス機能が増強されて感染症状を改善することを確認できたという。

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    運動するタイミングによって血液中のpDCが一時的に減少したり増加したりすることが明らかになった(京都大学提供)

一連の実験結果を踏まえて研究グループは、運動が抗ウイルス免疫に与える影響は、ウイルス感染後に運動するタイミングによって正にも負にも作用し得ると結論付けた。さらに、実験結果の解析から、血液中のpDCの変動は、運動中に副腎皮質から産生されるホルモン「グルココルチコイド」により決まることも突き止めたという。

今回の研究について研究グループは、今後ヘルペスウイルス以外のウイルス感染症や、人間でも、同様の現象が起きるのかを確認する必要があるとしながらも、運動により抗ウイルス免疫力を効果的に増強させる治療や予防戦略に応用できる可能性があるとしている。

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