東京大学 生産技術研究所(東大生研)は6月1日、神戸製鋼所およびコベルコ科研との共同研究により、Snを添加した酸化物半導体「IGZO」を用いたトランジスタと強誘電体「HfO2」によるキャパシタを集積し、プロセッサの集積回路の配線層に混載可能なメモリデバイス技術の開発に成功したと発表した。
同成果は、東大生研の小林正治准教授らと、神戸製鋼所およびコベルコ科研との共同研究チームによるもの。詳細は、6月13日に国際会議「2021 Symposium on VLSI Technology and Circuits」の「VLSI Technology Symposium 2021」にて発表される予定だという。
近年、ビッグデータと機械学習を組み合わせることで、さまざまな新サービスが生み出されつつあるが、その演算のためには大容量メモリと高いコンピューティング能力が必要とされている。
機械学習においてビッグデータを用いるような場合、その計算に要する時間は、プロセッサとメモリとの間におけるデータの伝送効率によって変わり、「フォンノイマンボトルネック」として知られており、メモリとプロセッサ間のデータ伝送の高効率化が重要視されている。
従来、メインメモリとプロセッサは別チップで基板上に実装されており、そのやり取りは決して効率が良いとは言えなかった。そのため、高効率化に向け、プロセッサとメモリを同一チップ上に集積する手法など、さまざまなものが考案されてきた。
しかし、一般的にメモリ要素を、プロセッサ直上の配線層に三次元集積することは難しく、チップ上にメモリのための面積が必要となってしまうなどコストがかさむという課題があったほか、メモリを駆動させるためのトランジスタも配線上に形成する必要や、その高性能化、高信頼化などが求められていた。
そうした背景を踏まえ、研究チームは今回、大容量メモリと高効率データ伝送を両立するプロセッサと混載可能なメモリ技術の実現に向け、Snを添加したIGZO(IGZTO)をチャネル材料とするトランジスタと強誘電体HfO2キャパシタを集積する、配線層に形成可能なメモリデバイス技術を提案することにしたという。
Sn添加IGZO材料は、神戸製鋼所とコベルコ科研がフラットパネルディスプレイ(FPD)向けに開発した高移動度・高信頼性な酸化物半導体材料で、今回の研究では、集積デバイス応用のため8nmの極薄IGZTOチャネルと高誘電率のHfO2ゲート絶縁膜でトランジスタが試作され、従来のIGZO材料と比べて2倍以上の高いキャリア移動度である20cm2/Vs程度が確認されたという。
また、強誘電体HfO2材料はこれまで500℃以下で強誘電性を発現させることが困難という課題があったほか、書き換えを繰り返すごとに特性が変動する「wakeup現象」が起こってしまうという問題があったが、今回の研究では、IGZTOをキャップ材料とすることで400℃以下の温度でも強誘電性を発現させることに成功したとする。
さらに、IGZTOと強誘電体HfO2は共に酸化物材料であり急峻な界面が得られるため、界面に欠陥や酸素空孔が形成されにくく、wakeup現象のない良好な強誘電体特性が実現できたともしている。
実際にIGZTOを用いたFETと、強誘電体HfO2キャパシタを集積させたメモリデバイスを試作、書き込み動作と読出し動作の実証を行ったところ、トランジスタのゲート電圧が大きくなったことで、トランジスタの駆動力が上がり、メモリ動作が速くなることが確認されたほか、キャパシタ面積が小さくなったことで充放電する電荷量も小さくなり、メモリ動作が速くなることも確認されたという。
加えてデバイスモデリングの結果から、ナノ秒オーダーで動作することが確認されたともしている。
なお、研究チームでは今後、さらなる高移動度化によりメモリ動作速度の向上が見込めるとしている一方、トランジスタとキャパシタのさらなる信頼性の向上が必要であることから、信頼性評価と劣化メカニズムの解明および課題解決に取り組んでいくとしている。