東京23区の地下構造を立体的に示す次世代地質図を産業技術総合研究所(産総研)が完成させ、ネットで公開した。従来の平面の地質図では難しかった地下の的確な表現を、独自の3次元モデリング技術で5万カ所もの地質データを解析して実現した。ハザードマップの作成やインフラ整備などでの活用が見込まれる。今後は対象を隣県の一部に広げるほか、他地域での製作も検討するという。

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    3次元地質地盤図の表示例(産業技術総合研究所提供)

地質や地盤の情報は建築や土木工事に不可欠。また2011年の東日本大震災では首都圏でも建物の被害や液状化が多発し、土地の状況を理解することの重要性が認識された。ただ都市開発が進んだ地域では、露出した地層の観察は困難。また従来の地質図は地層の分布を平面に色分けして描いたもので、特に平野部の地層を表現することは「地図上に高層ビルを表現するのと同様に難しい」(産総研の担当者)という。

そこで産総研の研究グループは地層の分布を立体的に可視化することにし、まず2018年に千葉県北部版の3次元地質地盤図を公開。このノウハウを基に、さらに大がかりな調査、解析を必要とする東京23区版の製作を進めた。

産総研による20カ所の詳細なボーリング調査データを基準とし、東京都土木技術支援・人材育成センターによる5万カ所の工事用ボーリングデータを連携させて解析した。コンピューターによる独自のモデリング技術で地層の形状を割り出し、地質構造の複雑な23区で、地下数十メートルまでの3次元の可視化に成功した。

その結果、軟弱な泥層が広がる地域が新たに見つかるなど、地下の詳しい状況が明らかになった。

地球は氷期と比較的温暖な間氷期を、70万年前から10万年ごとに繰り返してきた。直近の氷期(11万5000~1万1700年前)の最盛期には海面が現在より120~130メートル低かった。陸地だったところに川の侵食作用で深い谷ができ、その後に海面が上昇。泥でできた軟弱な「沖積層」がこの谷を埋めて現在に至っている。

完成した地質図ではこの「埋没谷」が、従来知られてきた下町の低地で明確に描き出された。東京の区部だけで長さ約25キロで、最も深い湾岸地域では深さ約80メートル、幅3~4キロに及ぶことが分かった。

また地盤が固いとみられていた武蔵野台地の一部にも、沖積層に似た軟弱な泥層の下に埋没谷があることが、新たに判明した。14万年前の氷期に谷ができ、13万~12万年前の間氷期に埋まったとみられるという。2カ所あり、代々木から高輪にかけての10キロ程度、幅3~4キロと、世田谷区内の長さ10キロ程度、幅1.5~3キロのものが、それぞれ確認できた。

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    下町の低地(左、水色や青の部分)と武蔵野台地の埋没谷(代々木~高輪、世田谷区内)=いずれも産業技術総合研究所提供

産総研は「都市域の地質地盤図『東京都区部』」として、ネットで5月21日に公開した。パソコンの一部ブラウザで見られるが、立体図の表示には対応するプラグインが必要。立体図や平面図のほか、任意の2地点間の断面図なども表示する。

今後は埼玉県南東部や千葉県中央部、神奈川県東部でも作業を進め、首都圏主要部の地質図を整備する。関西や中京などでの製作も検討するという。産総研地質情報研究部門情報地質研究グループの中沢努研究グループ長は「3次元地質図は海外にも取り組みの例があるが、ここまで詳細なものは聞いたことがない。活用することで、例えば『台地だから地下すぐに固い地盤がある』と先入観を持たずに済み、建築計画などが立てやすくなる」と述べている。