2021年5月31日、興味深いニュースが流れた。スペースデータが、衛星画像と3DCG技術を活用して仮想空間にもう1つの世界を自動に生成するAIを実験的に開発したというニュースだ。

これは、現実世界に近い仮想空間をAIなどで創る、ちょっと、誇張しているかもしれないが、そんなすごい構想だ。今回は、スペースデータがどんな企業なのか、どのような取り組みをしているのか、紹介したいと思う。

デジタルツインを推進するスペースデータとは?

スペースデータは、2017年に設立された宇宙スタートアップ企業。CEOは佐藤航陽氏で、ビジョンは、「新しい宇宙を作る」、ミッションは、「現実世界を学習し、仮想空間に世界を再構築するAIを開発する」とある。

ほかに、スペースデータのホームページなどには、「デジタルツイン」のワードが目立つ。「デジタルツイン」とは何だろうか。

デジタルツインとは、現実世界のデータをもとに仮想空間で現実空間を再現する技術。

この技術は、建築、都市開発、VR、自動運転というさまざまな分野での活用が開始されているというが、現実世界の精密な3Dモデルを作るのはとてもコストがかかるので、世界の一部の地域でようやく開始されたという、まだまだ初期の段階のようだ。

スペースデータは、AI技術などを活用することで、仮想空間に現実世界に近い世界を創る、そんなことが可能な技術を開発している。

それを実現するための技術が、衛星画像とAIと3DCG技術。この3つの技術を融合させて地球規模の仮想空間を創造する、しかも人間の手ではなく、スケーラビリティのあるAIによって自動的に生成するという。

スペースデータの技術力とは?

2021年5月31日、スペースデータが発表したのは、衛星画像と3DCG技術を活用して仮想空間にもう1つの世界を自動生成するAIを実験的に開発したというニュース。

その一例として、東京都内のある地域をAIで再現した仮想空間を、画像と動画で公開している。

膨大な衛星画像をAIに学習させ、地球の地理空間情報を理解させて、3DCG技術でもうひとつの「地球」をつくるアルゴリズムの開発を行なっているという。

具体的にどのように再現しているかというと、衛星画像である静止画像とDEMやDSMの標高データに機械学習を行い、地上の構造物を自動的に検出、分類、構造化し、AIに地上の3Dモデルを自動生成させ、3DCG技術によって石・鉄・植物・ガラスなどの細かな材質を自動的に再現しているという。

ちなみに、DEMとは「Digital Elevation Model」のことでオリジナルデータから建物や樹木などの高さを取りのぞいた地盤の高さのこと。DSMとは、「Digital Surface Model」のことで建物や樹木を含んだ地球表面の高さのこと。

実際に以下の画像をご覧いただきたい。特にビルの屋上にある空調に室外機などの機器がとてもリアルに再現されているのに驚く。

  • 東京都内の仮想空間画像
  • 東京都内の仮想空間画像
  • 衛星画像×AI×3DCG技術で東京都内の一部の地域をAIに再現させた仮想空間画像(出典:スペースデータ)

では、3D地球儀などと何が違うのだろうか。筆者の仮説も含まれるが、従来の3D地球儀は衛星画像や航空写真などを3Dモデルに貼り付けた形で提供されるのが一般的。

そのため、3D地球儀において、個人の動きや視線を考えたときの写真の解像度が不足する、詳細な位置座標などがないという課題がある。

ほかにも、自動車やヒトに各種センサを搭載して、都市の3次元情報の点群データや映像を取得し3Dの地図を作成するケースもあるだろう。これは詳細な位置座標を持った3D座標を作れ、自動運転やドローンの自動飛行などにも活用されるものだが、時間とコストがかかる。

しかし、スペースデータの今回の技術であれば、これらの課題を解決できる可能性があり、VR、ゲーム、映像制作、自動運転などの分野で活用される可能性が出てくるのだ。

しかも、肖像権や著作権にも配慮できるシステムのようだ。実際、従来の3D地球儀だと写真に看板や広告などが写り込んだ状態で、肖像権、著作権を犯した状態のままとなっているケースが多く、法的にグレーな状態が続いているという。

ストリートビューなどではヒトの顔や自動車のナンバープレート、自宅の表札などにモザイク処理を実施しているのはご存知だろう。

しかし修正依頼可能であるサイトをみると完全ではなさそうだ。そしてもしこの処理をするとなるととても骨の折れる作業だと推測できる。

今回のスペースデータのAIアルゴリズムでは、看板や広告などを除いたかたちで3Dモデルを自動生成できるので、肖像権や著作権の問題にも容易に対応することができるという。実際に以下の動画をご覧いただきたい。看板や広告などは見当たらない。

スペースデータが公開した衛星画像×AI×3DCG技術でAIに再現させた仮想空間の動画

そして、スペースデータでは、近日に衛星画像とAIで作るデジタルツイン・プラットフォームを無料提供する予定だ。

いかがだっただろうか。また、すごい構想と技術力をもったスタートアップが登場した。 筆者は、このデジタルツインの世界が、近い将来一般的になると感じている。

例えば、現実の具体的な都市、地域を仮想空間に想定し、企業の事業で利用する仮想空間、若者向けの仮想空間、友達などグループで利用する仮想空間、SNS用の仮想空間、対戦用ゲームの仮想空間、グルメ情報用の仮想空間、避難・防災訓練用の仮想空間、経済実証用の仮想空間などなど考えれば考えるほど仮想空間の活用方法は挙げられるだろう。

今後のスペースデータの事業に注目したい。