新潟大学は5月28日、「超低過電圧」で水を分解する高活性酸素発生触媒電極を開発し、従来よりも低いエネルギーで水を電気分解することに成功したことを発表した。

同成果は、新潟大 自然科学系の坪ノ内優太特任助教、同・ザキ・ナビホ・アハメド・ザハラン特任准教授、同・八木政行教授らの研究チームによるもの。詳細は、エネルギーと環境を扱った国際学術誌「Energy & Environmental Science」に掲載された。

化石燃料の代替えとして水素の利用が唱えられているが、いかにその水素を作るか、ということが課題となっている。確かに水素は水を電気分解すれば容易に生産できるが、そうなると電気をどのように生産するかが重要になってくる。化石燃料を使用して発電していたのでは意味がなく、太陽光発電や風力発電など、再生可能エネルギーで生産できるようにすることが求められるが、そこで消費される電気は少ないに越したことはない。水を実際に電気分解するには、その理論電圧である1.23Vが必要だが、現実にはそれだけでは分解できず、酸素発生電極触媒の過電圧(ηO2)と水素発生電極触媒の過電圧(ηH2)も必要となることが知られている。

また、過電圧は、実際に水分解の反応を進行させるときに必要な電圧と、反応の理論電圧(1.23V)との差のことで、この値が低いほど高効率の電極といえ、可能な限りηO2とηH2を小さな値にすることが、水の電気分解を高効率化するために重要とされている。しかし実際には、世界最高水準の電極でもηO2の値は160mV程度で、より低い値の実現が求められていた。

そうした背景を踏まえ、今回の研究で見出されたのが、「多孔性ニッケル基板」を「チオ尿素」(尿素の酸素原子を硫黄原子に置き換えた構造を持つ有機物質)と共に焼成処理することで基板上に析出する、窒化炭素に包含された「硫化ニッケル(C3N4/NiSx)ナノワイヤー」だという。

  • 水電気分解

    多孔性ニッケル基板表面に形成された硫化ニッケルナノワイヤーのイメージ (出所:新潟大プレスリリースPDF)

  • 水電気分解

    硫化ニッケルナノワイヤーの透過型電子顕微鏡画像 (出所:新潟大プレスリリースPDF)

硫化ニッケルナノワイヤーを酸素発生触媒電極として用いて、1.0M水酸化カリウム水溶液を用いて水電解を実施したところ、ηO2が32mVという、非常に低い過電圧で水が分解されることが確認されたという。

  • 水電気分解

    世界最高水準の酸素発生電極とのηO2の10乗値の比較。赤棒が今回開発された硫化ニッケルナノワイヤーを用いた電極の値 (出所:新潟大プレスリリースPDF)

この高効率の理由は、硫化ニッケルナノワイヤーと電解質水溶液の界面に触媒活性サイトとなるニッケル酸化物(NiO(OH))層が形成され、基板から活性サイトまでの電子輸送が効果的に進行したためであると推察されるという。そのため研究チームでは、この機構を詳細に研究することで、世界に先駆けて高効率酸素発生触媒電極の開発ガイドラインを提供できるようになると考えているとしている。

また、今後は、今回の研究で開発された硫化ニッケルナノワイヤーを用いる水電解セルと太陽電池を用いて、世界最高クラスの太陽光水素生成変換効率を達成し、実用的な太陽光水素生成システムへの道筋をつけることも目指すとしている。