近畿大学(近大)と大阪大学(阪大)は5月27日、腸内フローラが作り出す物質である「短鎖脂肪酸」が、前立腺がんの増殖を引き起こすことを明らかにしたことを発表した。
同成果は、近大医学部 泌尿器科学教室の藤田和利准教授、阪大大学院 医学系研究科 泌尿器科学の松下慎大学院生、米・アラバマ大学の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、がんに特化した国際学術誌「Cancer Research」にオンライン掲載された。
前立腺がんは、近年高齢化とともに発症数が増加し、国内では男性で最も多いがんとなった。食生活と密接に関連するがんでもあり、日本における近年の罹患率上昇は、高脂肪食を特徴とする欧米型食生活の普及が一因であるといわれている。
一方、腸内フローラやその代謝産物は、大腸がんなどのさまざまな疾患に関与することが最近報告されており、新たな治療ターゲットとして脚光を浴びているという。ヒトの腸内には40兆もの細菌が棲み着いており、それらの細菌が形成する細菌叢を腸内フローラという。次世代シークエンサーの登場により、遺伝子を基にした細菌叢全体の解析が可能になったことで、飛躍的に理解が深まっており、ヒトにとって腸内フローラが重要であることがわかってきている。
前立腺がん患者は、その腸内フローラが特異であることが報告されており、これまで前立腺がんとの関連が示唆されてきた。実際、国際共同研究チームもこれまでの研究において、前立腺がんモデルマウスに高脂肪食を投与して肥満になると、前立腺がん増殖が促進されることを確認しているという。しかし、腸内フローラと前立腺がんが関連するメカニズムそのものについては明らかになっていなかった。
そこで国際共同研究チームは今回、高脂肪食を投与して肥満状態にした前立腺がんモデルマウスに抗生物質を投与して、腸内フローラを変化させることを試みた。すると短鎖脂肪酸を作る腸内細菌が減少し、便中の短鎖脂肪酸量も減少。それが宿主であるマウスに作用し、血中とマウスの前立腺がん中のホルモン「IGF-1」が低下することが確認されたのである。
短鎖脂肪酸とは、酪酸、酢酸、プロピオン酸など、炭素が2~4個ほどの脂肪酸のことを指す。大腸で腸内細菌により産生され、大腸がんの予防効果や糖尿病や肥満の予防効果が報告されている。またIGF-1とは、成長ホルモンにより肝臓や筋肉などで産生され、体の成長に重要な役割を果たすホルモンのことだ。
一方、これらのマウスに短鎖脂肪酸を補充すると、血中のIGF-1は増加し、前立腺がんの増殖が促進されることが明らかとなった。これによって、腸内細菌の産生する短鎖脂肪酸が、IGF-1を介して前立腺がん増殖を促進することが判明したのである。
また肥満患者の前立腺全摘標本を用いて、免疫組織化学染色によりIGF-1の発現の調査が行われた。すると、ヒトでも肥満患者の前立腺がん組織で非肥満患者と比べてIGF-1が増加しており、マウスと同様のメカニズムが存在することが示唆されたという。
今回の研究成果は、腸内フローラをターゲットとした、前立腺がんの新規予防法・治療法の開発につながると期待されるとしている。