量子科学技術研究開発機構(QST)とキヤノン電子管デバイスは、2021年5月28日、フランスで建設中の核融合実験炉「ITER(イーター)」で、プラズマ加熱に使用する高出力マイクロ波源ジャイロトロンの日本担当分8機すべての製作を終えたと発表した。
また、2025年に予定されているITERの運転開始に必要な4機の性能確認検査が終わり、ITERサイトへ出荷待ちのステータスにあるという。
2025年から開始予定の実験で使用するジャイロトロンは8機で、日本とロシアが4機ずつ担当する。加えて、2035年からの核融合実験で使用するジャイロトロンは24機で、分担は欧州と日本、ロシアが8機ずつ。日本は先駆けて必要数の8機をそろえた形となる。
高出力マイクロ波源ジャイロトロンは、キヤノン電子管デバイスが8機すべてを製作しており、1機ずつ那珂核融合研究所において性能検査が進められ、1~4号機は性能確認検査を通過済みだという。
1~4号機は、2022年以降にITERサイトへ空輸される予定となっている。
核融合をおこすためには、プラズマの生成や数億度までの加熱、さらに高温状態の維持が必要で、それらをすべて行うことができる加熱方法として、高出力波マイクロ波をプラズマに入射する方法がある。
高出力マイクロ波源ジャイロトロンは、電子銃から生じた電子ビームを強磁場中で加速し、そのエネルギーをマイクロ波に変換する装置で、そのマイクロ波でプラズマを数億度にまで加熱する。
原理は電子レンジと同じだが、出力100万W、周波数170GHzと、一般的な電子レンジと比較して出力約2,000倍、周波数約70倍の性能だ。
2035年に予定されている核融合運転時は、24機のジャイロトロンが並列使用され日本とロシア、欧州がそれぞれ8機ずつ製作を担当している。
ジャイロトンは全高約3m、重量約800kg。ほぼ中央に人工ダイヤモンド製の出力窓を備え、その窓から、本体内部で生じた高出力マイクロ波が出力されて、伝送部へ経て真空容器内の入射部に送られる。
求められる性能は10年以上運転可能で、かつ170GHz、100万W出力、持続時間数百秒以上、電力効率50%以上となっている。
そのため、性能確認試験では約4ヶ月の慣らし運転を経て、繰り返し運転や高速オンオフの切替試験を実施した。
製作直後の持続時間は0.001秒だったが、慣らし運転後は持続時間300秒になったとのことだ。
ジャイロトンの開発は1990年代から始まり、国内では2017年に1号機と2号機が、2021年に8号機まで完成し、日本が担当する分はすべての製作済んだことになる。
今後、5〜8号機は慣らし運転と性能確認試験が行なわれ、2023年までにITERサイトに運び込まれる予定だ。
ITER組み立ての進捗度は2021年5月末時点で約73%。順調に2025年のファーストプラズマに向けて進んでいる。