大阪大学(阪大)は5月26日、独自に開発した触媒を用いて、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を原料に、化学工業において有用な一酸化炭素(CO)を150℃以下の低温で製造することに成功したと発表した。
同成果は、阪大大学院 工学研究科の桒原泰隆講師、同・山下弘巳教授らの研究チームによるもの。詳細は、英王立化学会誌「Journal of Materials Chemistry A」に掲載された。
地球の気候変動の主たる原因物質とされ、その排出量削減が世界で進められているCO2。そのCO2を炭素資源と捉えて回収し、有用物質へと再利用する「CO2回収利用技術」の研究が進められている。
CO2を有用物質へと還元して得られるのは、酸素を1つ取り除いたCOだ。COはヒトをはじめとする生物には有毒物質だが、有機合成におけるカルボニル原料や、アルコール、ガソリンやジェット燃料などの液体炭化水素の原料となる有用な化学原料でもある。
現在、一般的にCOは、コークスや天然ガスに含まれるメタンガスと水蒸気とを800℃以上の高温で反応させることで製造されている。もし、それがCO2を変換することで作れれば、CO2の排出量を削減しつつ、有機合成の原料や内燃機関の燃料などの原料の製造を同時に達成することが可能となるのではと考えられている。
しかし、CO2をH2と反応させてCOと水(H2O)を製造する「逆水性ガスシフト反応」には従来500℃以上の高温が必要とされており、低温では低い反応率しか得られず、非効率という課題を抱えていた。
これまで研究チームは、モリブデン酸化物に白金ナノ粒子を担持した触媒が、含酸素化合物から酸素原子を取り除く「脱酸素反応」に優れた触媒となることを突き止めていた。そこで今回の研究では、その触媒をCO2の水素化反応に用いることにしたという。そして実験の結果、COが高効率かつ選択的に生成されることが発見されたという。
さらに新たに発見されたのが、その触媒に光を照射すると、還元反応速度が最大で約4倍にまで向上することであったという。中でも、厚さ40nmのナノシート状モリブデン酸化物に白金ナノ粒子を固定化した触媒においては、粒子状のモリブデン酸化物を用いた場合と比較して、約1.5倍のCO生成速度が得られたという。可視光を含む光照射下では、1.2mmol/g/hの反応速度でCOを生成することに成功したとしている。なお、この触媒において、白金ナノ粒子はH2分子を、モリブデン酸化物はCO2をそれぞれ活性化する役割を担っているという。
今回開発された触媒のメリットは以下の通りで、研究チームでは実用化に不可欠な基盤要素を兼ね備えているとする。
- 調製が簡便である
- 分離・回収の容易な固体触媒である
- 廃熱を利用可能な低温(140℃付近)でも駆動する
- 触媒に可視光を照射することで、反応速度が向上する
なお、今回の触媒は、再生エネルギーで生成された水素や、再生可能エネルギーの代表である太陽光などと組み合わせることで、CO2を効率的に有用物質のCOへと変換するためのクリーン技術として期待されると研究チームでは説明している。また、今回発見された触媒反応は、モリブデン酸化物の「表面プラズモン共鳴効果」に由来していることが実験的に裏付けられており、学術的にも極めて意義の高いものだとしている。