物質・材料研究機構(NIMS)は5月27日、サブミクロンスケールの任意の領域を選択的に極性化し、金属ナノ粒子の選択吸着により微細な電子配線を形成する印刷技術「2元表面アーキテクトニクス」を開発し、表面への簡便な処理によって、インクの吸着力と表面エネルギーが異なる領域を精密に作り分けることで、線幅0.6μmの微細な印刷を実現したことを発表した。

また、C-INKとプリウェイズの両者は、金属ナノインク向けの微細印刷装置「金属ナノ粒子配列システム」を開発し、各種基板に対して金属インクを良好に密着させる専用プライマーとともに販売を開始することも合わせて発表された。

今回の研究はNIMSセンサ・アクチュエータ研究開発プロジェクト「三次元フレキシブル回路」の一環として行われ、同成果は、NIMS 機能性材料拠点プリンテッドエレクトロニクスグループの三成剛生グループリーダー、NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の中山知信副拠点長、同・李玲穎JSPS特別研究員、独立研究者の天神林瑞樹氏、C-INKの金原正幸代表取締役社長、プリウェイズらの共同研究チームによるもの。詳細は、独・学術誌「Small」にオンライン掲載された。

「プリンテッドエレクトロニクス」は、金属ナノ粒子や半導体分子をインク中に分散させ、塗布・印刷プロセスによってパターニングを行い、電子回路を形成したり、半導体デバイスを製造したりする技術だ。既存の半導体製造技術と比較して簡便であり、低コスト化が見込めることから、研究開発が進められている。

その一方で、インクジェット印刷やスクリーン印刷といった既存の印刷技術は精度や解像度が十分でないという課題がある。また、それらの要求を満たす一部の特殊な印刷技術もすでに存在するが、それらはまたスループットや再現性に乏しいという別の問題を抱えていた。高精細な電子回路を素早くかつ安価に描画可能な印刷技術の開発が望まれていたという。

そうした背景を受けて研究チームは今回、表面の微細な領域に選択的に化学処理を行い、微細領域のインク吸着力と表面エネルギーを制御することで、選択領域にのみ金属ナノ粒子インクを自己組織化的に吸着する手法を開発。表面への光照射と化学処理の2ステップで表面に極性を付与することから、「2元表面アーキテクトニクス」と命名した。

  • プリンテッドエレクトロニクス

    (a)2元表面アーキテクトニクスのプロセス。(b)2元表面アーキテクトニクスによって金属インクを印刷しているところ (出所:共同プレスリリースPDF)

この手法を用いることで、プラスチックフィルムの表面に最小0.6μmの金属の細線を描画し、さまざまな形状のパターンを形成することが可能となったのである。

  • プリンテッドエレクトロニクス

    (a)2元表面アーキテクトニクスで印刷された金属ナノインクパターンの光学顕微鏡像。(b)印刷配線の走査電子顕微鏡像 (出所:共同プレスリリースPDF)

また、従来のプリンテッドエレクトロニクスによって金属配線を形成する場合、インクが乾燥する際に発生するコーヒーリング現象の抑制も大きな課題だった。コーヒーリング現象が発生する原因は、印刷した金属インクの液滴が周縁部分で速く乾燥することで液滴内部から周縁部へ向かう流れが発生し、結果として周縁部に多くの金属ナノ粒子が堆積するためだ。そこで、2元表面アーキテクトニクスで作製した極性表面では、コーヒーリング現象の原因となる液滴内部の対流を抑制させることで、より平坦な印刷電極が実現された。

  • プリンテッドエレクトロニクス

    (a)表面活性化のみで印刷が行われた金属電極の典型的な表面形状。(b)2元表面アーキテクトニクスによって印刷された金属電極の表面形状 (出所:共同プレスリリースPDF)

さらにC-INKとプリウェイズの両者は、金属ナノインクによる微細な印刷を行える「金属ナノ粒子配列システム」を開発。一般向けの販売も開始する。専用のプライマーを用いることで、ガラス・ポリイミド・透明プラスチックフィルムに対して電子配線を描画し、基材との良好な密着性を得ることが可能となるとしている。

  • プリンテッドエレクトロニクス

    (a)金属ナノ粒子配列システムの装置外観図。(b-d)ガラス、ポリイミド、透明フィルムの表面に金属ナノインクが印刷されたところ。それぞれの基材に良好な密着性を持つのがわかる (出所:共同プレスリリースPDF)

これまでの印刷技術では1~100μmの配線は製造が難しかったが、今回の技術により容易に印刷が可能となった。それにより、フレキシブルプリント基板や半導体パッケージといった、現代のエレクトロニクスに不可欠な領域に対してプリンテッドエレクトロニクスがさらに普及していくことが予測されるという。

なお、研究チームでは、将来的にはシリコンテクノロジーをはじめとした既存のエレクトロニクス製造技術と融合させることで、次世代モバイルデバイスやウェアラブルデバイスといった、さまざまな応用展開に発展することが期待されるとしている。