東京理科大学発ベンチャー企業のイノフィス(東京都新宿区)は、2021年5月17日に腕上げ作業支援向けの新製品「マッスルスーツ GS-ARM」の発表会を行った。
同発表会で、折原大吾代表取締役社長が同社のこれまでの沿革を説明する際に「事業戦略の一環として、2021年4月5日からマレーシアで、主力製品のマッスルスーツEveryの発売を始めた」と説明し、主力製品「マッスルスーツEvery」の海外販売に力を入れていることを強調した。
同社は、2020年7月10日に主力製品のマッスルスーツEvery の台湾での販売を開始したと発表し、2021年2月15日には韓国、続いて同年2月22日には中国でも販売を開始したと公表している。
2021年3月には台湾で動画CMの配信も行ったようだ。ちなみに、中国、台湾では中国語製品「肌力装」としてマッスルスーツEveryを発売している。
アジアの主力市場での販売開始を立て続けに発表した同社だが、2021年3月8日には「2021年3月1日からフランスとスペインでもマッスルスーツEveryの販売を始めた」と発表している。
同時に「2020年12月にEveryのCEマークを取得、EU各国における営業活動を始動した」と公表し、EU各国でも販売を活発化すると宣言していた。CEマークはEU各国の安全基準条件などを満たしていることを示すものだ。
福祉支援ロボットの先進国であるEU各国に本格参入する準備を進めてきた結果の行動といえる。こうした海外での主力製品のEveryの販売開始は、十分に準備された事業戦略によって進められている模様だ。
同社は今後国内販売事業を強化しながら、海外展開を推し進めることで、作業用支援ロボット事業の大幅な成長を図り、事業の安定成長を目指す模様だ。
日本の主力製品である乗用車も1980年代に、自動車の最大市場である北米・米国市場に本格参入し、当時のGM(ゼネラル・モーターズ)などの米国ビッグ3と製品販売・製品開発で競合し、同市場で実力を磨いた成果が現在のトヨタ自動車などが成長する駆動力となったという経緯を思い出させる。
イノフィスがベンチャー企業として成長を加速し始めた契機は、2015年8月3日に決まったINCJ(東京都千代田区、当時は官民ファンドの産業革新機構)による6.5億円の投資枠を得たことだった(正確には、上限6.5億円枠の投資枠を得たという発表内容)。
2017年12月にイノフィスの代表取締役社長に就任した古川尚史氏は、 2015年8月3日に決まったINCJによる6.5億円の投資枠を得て、その後に INCJや民間企業のベンチャーキャピタル などからの協調投資が実行されたことを振り返り、 INCJ に対して 「一家に1台、作業用支援ロボットを普及させることを目指して事業を進める」と伝えて、日本での作業用支援ロボットの事業化の重要性を強調していた。
この発言などによって、日本のベンチャーキャピタルらが、同社への協調投資を加速したといえるようだ。
INCJによる投資公表を契機に、実際にはベンチャーキャピタルのDJBキャピタル(東京都千代田区)や三菱UFJキャピタル(東京都中央区)などの11社が、いわゆるシリーズAとして協調投資した模様だ(同社の広報資料では、2014年に資本金を6億550万円に増資したと発表している)。この資本金の増加によって、製品開発と事業化を進めるための事業資金を手に入れたことになる。
続いて、2019年1月にイノフィスはシリーズBとして約8億円の投資を受けている。この際に重要な点は、この投資では香港(当時)のShun Hing Group、台湾のJochu Technologyに、日本のSMBCベンチャーキャピタル(東京都中央区)などの数社が参加して投資している。また、シリーズAとシリーズBには東京理科大学インベストメントマネジメント(東京都新宿区)も参加して協調投資している。
そして、イノフィスは2019年12月25日に、シリーズCとして、約35億円3000万円の資金調達を完了したと公表した。このシリーズCには、ハイレックスコーポレーション、Fidelity International(東京都港区)、ブラザー工業、フューチャーベンチャーキャピタル、ナック(東京都新宿区)、TIS (東京都港区)、東和薬品、トーカイ、ビックカメラが出資したという。
このシリーズCの成功には、2019年5月にイノフィスに入社した、当時の執行役員CFO(最高財務責任者)・経営企画部長だった現在の折原大吾代表取締役社長が腕を振るったと想像できる。同社の広報資料では、2019年内に資本金を49億4100万円に増資したと明らかにしている(シリーズBとシリーズCを併せて)。
2021年5月17日に発表した腕上げ作業支援向け新製品「マッスルスーツ GS-ARM」は、同年1月ごろから量産試作品を技術系の展示会で公表していた。
2021年2月中旬に取材した際には、折原社長はその開発途上の「マッスルスーツ GS-ARM」を装着し、改良中であると笑顔で説明していた。改良に際しては、果樹園や点検を行う現場などで試験的に装着してもらい、使い勝手などを確認し、微細な調整を続けて新製品としての正式発表に至ったという。
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