IoTの急速な拡大に伴い、数十台、数百台のデバイスが同じローカルネットワークに属し、実用的なデータを安全かつ迅速に共有できるメッシュネットワーキングトポロジーの需要が高まっています。スマートデバイスで一般的に使用されるローカルおよびパーソナルエリアネットワークプロトコルの多くが、メッシュトポロジーをサポートしています。

メッシュネットワークとは、クラスター内のデバイスを相互に接続して、ネットワーク上のすべてのデバイスに到達できる伝送経路を形成する方式のことです。特定のプロトコル内では、コミッショニング時に設定された所定のルーティングパスはなく、各デバイスがステータスを通信し、プロトコルがそのデータをどのようにルーティングするのが最適かを決定します。重要なことは、2つのデバイス間の接続は固定ではなく、ネットワークの状態に応じて変更される可能性があるということです。そのため、デバイスを追加または削除しても、ネットワークに障害が発生することはなく、残りのノードが別の経路を形成します。新しいノードを発見できることが、メッシュプロトコルの重要な特徴です。

メッシュネットワークで形成された接続は臨時的に作成および遮断できるため、このトポロジーはアドホックネットワークとも呼ばれます。各ノードはウェイポイントとエンドポイントの両方として機能でき、ネットワークトラフィックを伝播するだけでなく、共有情報を受信してそれに反応することができます。このように、ネットワークは、多くの場合エンドユーザーによって、デバイスを無線エリアに導入するだけでその場で作られます。

そのため、開発者は、デバイスがネットワーク内でどのように動作するのか、他のデバイスの数やネットワーク内での位置などを正確に知らないままデバイスを設計しなければならないという特有の問題があります。幸いなことに、メッシュネットワークをサポートする無線プロトコルは、これらの課題を理解しそれに対応しています。最近、メッシュネットワークをサポートする無線プロトコルに加わったのが、Bluetooth Low Energy技術です。

Bluetoothメッシュネットワーク開発キット

メッシュネットワークを使用するかどうかの判断は、ネットワークに含まれる機器の種類、ネットワークの規模、必要な回復機能などを考慮して行われると推定されます。IoTでは、ユースケースや対象となる垂直セグメント(産業用、医療用、ビル用など)に応じて、さまざまなセンサーやアクチュエータが使用されます。そのため、メッシュネットワークの開発・評価環境を選ぶ際には、できるだけ多くの種類のセンサーを搭載したものを選ぶのが得策です。

基礎となるプロトコルがメッシュネットワークのフレームワークになりますが、開発者はアプリケーションを追加する必要があります。このため、開発環境のハードウェアと、使いやすく機能豊富なソフトウェア開発キット(SDK)を密接に連携させることが重要です。このような密接な統合により、開発環境が設計上の障害になることなく、全体の流れの中に組み込まれ設計サイクルを加速させることができます。

メッシュネットワーキングソリューションを開発する際には、必要な数のノードを組み込むことができ、正しい動作を保証し、メッセージ中継機能やネットワークの堅牢性をシミュレートする機能などの多様な機能をテストできることが、有用です。そのため、開発キットを評価する際には、テストノードを追加して環境を拡張できるかどうかを査定する必要があります。これにより、設計チームは大規模なネットワークをエミュレートできるだけでなく、大規模なネットワークトポロジーを処理するための基盤技術をテストすることができます。

考慮すべきもう1つの重要な点は、ネットワークが展開された後の実世界でのプロビジョニング(顧客に対する技術やサービスの供給)です。メッシュネットワークのプロトコルとしてBluetooth技術を選択する主な利点の1つは、ほぼ全世界で採用されていることです。今日では、ほとんどすべてのスマートフォンやタブレット端末がBluetooth Low Energy接続に対応しており、サードパーティ製アプリケーションを実行できるBluetooth対応機器があれば、メッシュネットワークのプロビジョニングがより簡単になります。

メッシュネットワーク開発への統合的アプローチ

オン・セミコンダクターの「RSL10メッシュプラットフォーム」は、これらの機能をすべて備えた一環境であり、「RSL10 System-in-Package(RSL10 SIP)」をベースにしています。RSL10 SIPは、Bluetooth 5認証無線機の実装に必要なアンテナとすべての受動部品を備えた無線機SoCを統合したBluetooth技術ソリューションです。この低消費電力デバイスが、「RSL10メッシュプラットフォーム」の基盤を形成します(図1)。付属の認証済みメッシュスタックにより、開発者はBluetooth Low Energy技術のメッシュ仕様で規定されるさまざまな必須機能およびオプション機能を実行することができます。

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    図1:オン・セミコンダクターのRSL10メッシュプラットフォーム

図1に示すように、この開発キットは、IoTアプリケーションで使用されるいくつかの一般的なタイプのセンサーやアクチュエータとともに、RSL10 SIPを統合しています。メインボードはStrata Developer Studioプラットフォームと互換性があり、これは完全なソリューションを実現する上で重要です。図2はRSL10メッシュプラットフォームのノードのブロック図です。

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    図2:RSL10メッシュプラットフォームに搭載されているBluetoothメッシュノードのブロック図

オン・セミコンダクターのクラウドベースの開発プラットフォームであるStrata Developer Studioは、開発キットに関連するすべての設計資料への即時かつ容易なアクセスを提供することによって、プロジェクトの評価および開発フェーズをサポートします。ソフトウェア実行中のPCに対応ボードを差し込むだけで、Strata Developer Studioは即座にボードを識別し、オン・セミコンダクターのクラウドリソースから利用可能なすべての設計サポートを探し出します。このようにして、エンジニアが必要とするすべての設計データが常に最新の状態に維持され、いつでも利用可能です(図3)。

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    図3:Strata Developer Studioにより最新のデザインコラテラルに即座にアクセス可能

また、Strata Developer Studioを使用すると、他の開発キットでは提供されていない対話型シミュレーション環境などの追加機能も利用できます。Bluetooth Low EnergyでStrata Gatewayに接続されたすべてのRSL10メッシュノードが、ライブでリアルタイムに画面表示されます。エンジニアは、それらが展開されたアプリケーション内にある実在のメッシュネットワークノードであるかのごとく、ノードと対話できます。この機能は「すぐに」利用できるので、評価および開発プロセスをより迅速に行うことができます。図4はStrata Developer Studioがどのようにしてメッシュネットワーキングを実現し、エンジニアリング生産性を向上させることができるかを示す典型的な例です。

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    図4:Strataによるメッシュネットワークの実現

また、スマートモバイルデバイス用のRSL10メッシュアプリケーションはAndroidとiOSに対応しています。このアプリケーションでは、RSL10 SIPをベースにしたBluetoothメッシュノードの検出とプロビジョニングを簡単に行うことができます。さらに、オン/オフなどのコマンドを使ってノードを制御したり、LEDでノードの色相、彩度、光源レベルを設定したりすることも可能です。

まとめ

Bluetoothなどの最新の無線プロトコルは、メッシュネットワーク機能を提供していますが、メッシュネットワークノードとして動作するデバイスの開発には固有の課題があります。メッシュネットワークは、接続の形成・遮断に対してアドホックアプローチをサポートしており、他の形態のピアツーピアネットワークモデルとはアプローチが異なります。Bluetoothはピアツーピア接続の伝統を維持しながら、メッシュネットワーキングをサポートできる点がユニークであり、他の技術に対する優位性を備えています。そのため、IoTのあらゆる分野で一段と人気が高まっています。

最新の開発ツールを使えば、Bluetooth Low Energy技術に基づくメッシュネットワークを開発する際の課題を軽減できます。RSL10メッシュプラットフォームは、すべての要素を1つの環境にまとめることで、エンジニアリングチームの生産性を向上させ、メーカーの市場投入までの時間を短縮できることを示す良い例です。

著者プロフィール

Pavan Mulabagal
ON Semiconductor
Director
IoT Marketing and Strategy