蚊に刺されてもその瞬間はほとんど痛みを感じず、かゆくなって初めて刺されたことに気がつくことが多い。その理由は蚊の唾液に含まれるタンパク質成分が痛みを感じるセンサー機能を抑えるためであることが分かったー。自然科学研究機構・生理学研究所などの研究グループが蚊の季節を迎える中で興味深い研究成果を発表した。今後の研究の進展によっては新しい鎮痛薬の開発につながる可能性があるという。
刺す際に多量の唾液を出すが、この唾液は肥満細胞に働いてヒスタミンを放出させ、このヒスタミンがかゆみをもたらすことは分かっていた。しかし、唾液の無痛性穿刺への関与は不明だったという。
生理学研究所・生命創成探究センターの富永真琴教授と関西大学システム理工学部の青柳誠司教授、富山大学学術研究部の歌大介准教授らの研究グループは、感覚神経にあるカプサイシン受容体とワサビ受容体という2つの痛みセンサーに着目。蚊に刺された時の鎮痛作用に関係しているのではないかと考え、マウス実験などをしながら研究を続けた。
富永教授らは、蚊の唾液に含まれる多くの成分のうち、どのような成分が2つの痛みセンサーの機能を抑制するかを特定するために、まず蚊の唾液を熱処理した。唾液のタンパク質成分がこの機能を抑制しているのであれば、熱処理によりタンパク質の変性が起こって痛みセンサーに対する抑制効果がなくなることを確かめられる。唾液をセ氏95度で20分熱処理したところ、推測した通り唾液を付与してもいずれのセンサーも抑制効果は失われていた。
熱処理で唾液に含まれるタンパク質成分が2つの痛みセンサーの機能を阻害することがはっきりした。また、唾液に含まれるシアロルフィンというタンパク質成分がセンサーの機能を抑制する上で重要な働きをしていることも突き止めた。
さらにマウスの足の裏にカプサイシンやワサビ成分のアリルイソチオシアネートなど、痛みを起こす物質を付与して実験した。その結果、シアロルフィンを含んだ蚊の唾液を与えると痛みに伴う行動が抑制された。蚊だけでなく、マウスの唾液も痛みセンサーの機能を抑制したことから、唾液の効果は多くの動物に共通している可能性があるという。
研究グル-プは、人間を含む多くの動物がけがをしたときに傷口をなめる行為の理由の一つは唾液による鎮痛作用と関係があるかもしれないとしている。また、シアロルフィンなど、唾液に含まれる成分の研究は新たな鎮痛薬開発につながると期待している。
蚊はさまざまな病気を媒介する。例えば、ガンビエハマダラカはマラリア、ネッタイシマカはデング熱や黄熱など、イエカは西ナイル熱などだ。研究グループによると、蚊の関与により毎年、数十万人死亡している。
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