新型コロナウイルスの登場により、企業はさまざまな変化を求められている。その変化のひとつがデジタルトランスフォーメーション(DX)だ。「AWS Summit Online」において、コーセーで情報統括部グループマネージャーを務める進藤広輔氏が、同社のDXへの取り組みについて講演を行ったので、そのポイントをお伝えしよう。
コロナ前の情報統括部の改革
進藤氏は新型コロナが登場する前から、自身が所属する情報統括部の改革に着手していた。手始めに、メンバーの現状を把握した結果、時間がないことがわかったという。そこで、仕事の棚卸しをしてもらったところ、定型および非定型の運用作業に大半の時間が割かれていることが明らかになった。さらに、その内容を詳しく見てみると、特定個人への依頼や問い合わせ、つまり、属人的かつ非効率だったのだという。
そこで、最初に取り組んだことが、個人依存の仕事からチーム対応の仕事へのマインドチェンジだった。個人宛ての問い合わせ、依頼を原則として禁止したのだ。加えて、定型業務のアウトソーシングと非定型業務の定型化を実施した。これにより、定型作業を約35%削減できたそうだ。
進藤氏は「事業会社の情報システム部門が新たなことに取り組むには、考える時間を確保することが必要。そのために、付加価値を生まない定型業務は外にアウトソーシングし、非定型業務だと思い込んでいる業務のうち、定型化が可能な業務は定型業務にする。こうした取り組みが、DXやコロナ禍への対応に効いてきます」と語った。
インフラ、ソフト、マインドの3段階アプローチで進めたコロナ禍対応
そして、コロナ禍において、ワークスタイルおよびライフスタイルが一変することとなった。コーセーでは、新型コロナ出現時、パソコンはデスクトップ、LANは有線、データはデータセンターに保存されており、働き方は100%出社していた。これらが、新型コロナの登場により、ノートPC、無線LAN、クラウドに変わり、働き方も在宅中心で出社率20%と変化を遂げた。出社しなければできない業務はアウトソーシングに出すことで、出社率20%をキープできているのだという。
進藤氏は、コロナ禍への対応について、「インフラの整備」「ソフトの整備」「マインドの整備」といった形で段階的に取り組んできたと説明した。インフラが最初のアプローチだったのは、ソフトを先に整備してしまうとインフラがボトルネックになってしまう可能性もあるからだ。「マインド」に関しては、在宅勤務で広がりがちな会社と社員の距離を縮めるという目的があったという。
コロナ禍における対応例として、動画配信による研修が紹介された。新型コロナが登場する前は出社して会議室などに集合して行っていた企業が多かったのではないだろうか。コーセーでは、AWSのマネージドサービスを活用することで、未経験者2名が3週間で社内の配信サービスを立ち上げたそうだ。
事業会社の情報システム部門におけるDXを阻む課題と解決策
進藤氏は、事業会社の情報システム部門におけるDXとは、「デジタイズ(数値化、データ化、蓄積)×デジタライズ(分析・解析から得られたインサイト、プロセスの改善)」と述べた。そして、同氏は「DXはデジタル化、IT化、特手部門だけのものではなく、全社で取り組むべきもの」ということを強調した。
情報システム部門がDXに取り組みにあたっては、「スピード重視でチャレンジし続ける組織・ヒトが不在であること、失敗してもやり直せる仕組み・プロジェクトがないこと」が課題となるという。
そこで、コーセーでは、「組織・ヒト」「仕組み」「スピード、繰り返す」という課題に対し、それぞれ解決策を用意した。まず、「組織・ヒト」に関しては、コーセーの情報統括部員とITベンダーのエンジニアがペアを組む「Co-Working」の体制を構築した。これにより、コーセーの社員はITベンダーの仕事を学んで、ITベンダーのノウハウ・ナレッジをコーセーに蓄積すること、ITベンダーが事業会社のビジネスを学ぶことが可能になる。進藤氏は「Co-Working体制によって、われわれとベンダーをWin-Winの関係になれる。セカンドプロジェクトから、コーセーが単独で運営できるようになる力をつけていく」と語った。
「仕組み」については、AWSへ完全にシフトし、マネージドサービスとサーバレスを全面採用した。進藤氏は、AWSのエンジニアリングを活用するコツについて、「Solution Architect」「Professional Service」「Enterprise Support」の特徴を理解してクイックに使い倒すことすることと説明した。
AWSを活用した例として、コロナ禍における店頭混雑状況可視化システムが紹介された。このシステムは、営業の現場やお客様の声から作られたものだという。新人3名とAWSのSolution Architectというプロジェクトメンバーにより、1.5カ月の開発期間で完成させたという。
DXに取り組むうえで、人材不足が課題となっている企業は多いだろう。人材を増やすことが容易ではない今、コーセーの取り組みは、DXに取り組む企業にとって大きなヒントとなるのではないだろうか。