昭和大学は5月17日、アルツハイマー病の病因タンパク質である「アミロイドβ」の一種である「アミロイドβ1-42毒性オリゴマー」に対し、天然フラボノール「ミリセチン」が神経細胞保護効果を示し、アルツハイマー病の進行を抑制する可能性を示したと発表した。

同成果は、昭和大学 医学部内科学講座 脳神経内科学部門/同・薬理科学研究センターの木村篤史助教、同・薬理科学研究センターの辻まゆみ教授、昭和大 医学部内科学講座 脳神経内科学部門の安本太郎助教、同・森友紀子助教、同・薬理科学研究センターの小口達敬講師、同・辻勇弥氏、同・海野真一ポストドクター、同・海野麻未氏、同・西川徹客員教授、昭和大 歯学部口腔生理学講座の中村史朗准教授、昭和大・歯学部口腔生理学講座の井上富雄教授、昭和大・薬理科学研究センターの木内祐二教授、金沢大学 大学院医薬保健学総合研究科 脳老化・神経病態学(脳神経内科学)の山田正仁名誉教授、カリフォリニア大学ロサンゼルス校神経学のデービッド・B・テプロフ名誉教授、昭和大 医学部内科学講座 脳神経内科学部門の小野賢二郎教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、健康と疾病を題材とした学術誌「Free Radical Biology & Medicine」にオンライン掲載された。

神経細胞へのアミロイドβの過剰な凝集や蓄積は、アルツハイマー病の病因における主要なメカニズムの1つだ。同タンパク質が凝集・蓄積することで、リン酸化タウを通じ、最終的には神経細胞の死につながることがよく知られている。

単量体のアミロイドβよりも毒性が強いのが、凝集過程形成される同タンパク質のオリゴマーだ。特に、高分子アミロイドβオリゴマーの1つである「プロトフィブリル」は強い酸化傷害作用を持ち、アルツハイマー病の疾患修飾療法の標的とされている。

一方、ミリセチンは果物由来の天然フラボノールの1つで、強力な抗酸化作用を持つため、近年神経変性疾患に対する保護作用が注目されている。そこに注目した研究チームは今回、ヒト神経細胞モデルを用いて、高分子アミロイドβオリゴマーの神経毒性に対するミリセチンの保護効果の詳細なメカニズムを明らかにすることに取り組むことにしたという。

その結果、高分子アミロイドβオリゴマーにより、酸化傷害は増加し、細胞生存率が低下することが確認されたほか、細胞膜でも強い酸化ストレスの増加があり、細胞膜の流動性や機能が低下することも判明。また、ミトコンドリア局在の活性酸素種も増加し、ミトコンドリアの機能低下に伴い、エネルギー産生低下や酸化ストレスに対する防御因子の減少も明らかとなったという。

一方、ミリセチンはこれら酸化傷害と細胞生存率を改善。アミロイドβオリゴマーによる細胞傷害の要となる、細胞膜やミトコンドリアにおける酸化傷害を有意に抑制し、複数の機序で高分子アミロイドβオリゴマーに対し保護的に働くことが確かめられたいう。

特に、ミリセチンは直接的に高分子アミロイドβオリゴマーの酸化傷害を抑制するだけではなく、神経細胞が本来持つ抗酸化作用を強化し、間接的にも防御機構として働く可能性が示唆されたという。

また、摂取されたミリセチンが血管から脳へと向かう際に通る、脳を守るための生体内バリアである「血液脳関門」を通過できるかどうか、サル型血液脳関門細胞in vitroモデルを用いた検討も行われた結果、ミリセチンは有意に血液脳関門を通過することが明らかとなったという。

これらの結果を踏まえ研究チームでは、ミリセチンがアルツハイマー病の進行に対する疾患修飾化合物として活用できる可能性が示唆されたとしている。