新型コロナウイルスに結合して感染を防ぐと期待される中和抗体を10日間で人工的に作り出す技術を開発した、と広島大学の研究グループが発表した。感染力が強いと懸念される変異株に対する効果もあるという。今後の研究により人工抗体が量産できれば、重症化予防や重症患者向けの薬の開発につながると期待される。
新型コロナウイルスに感染した患者は、体内でウイルスに結合したさまざまな抗体が作られるが、再び侵入しようとするウイルス抗原にしっかり結合して再感染を防ごうとする力を持つのが中和抗体だ。
「疑似感染状態」を作るワクチンの場合も、接種によりできる中和抗体の効果が期待されている。中和抗体を人工的に作れば治療薬に使えるため、海外では人工抗体を投与する臨床試験が盛んに進められている。
広島大学大学院医系科学研究科の保田朋波流教授(免疫学)らは、新型コロナウイルスに感染、回復した重症度の異なる23歳から93歳までの約20人の患者を対象に血液を採取し、血清中に含まれる抗体を分析した。
その結果、感染から2週間以上経過してした患者はIgGと呼ばれる抗体を獲得していた。その約4割はウイルスを中和する活性が弱いか、検出感度以下だった。重症者と軽症者を比較すると、重症者の8割が中和抗体を獲得していたのに対し軽症者では2、3割にとどまっていた。
これらの結果を受けて研究グループは、独自に開発した技術を活用した。感染から2週間以上経過した重症患者の血液から中和抗体を作る免疫細胞を選別・単離。これらの免疫細胞から抗体を作る遺伝子を取り出して増幅し、中和抗体を人工的に作製することに成功した。
さらに、これらの人工抗体から、従来の新型コロナウイルス(武漢型)に強く結合する32種類の人工抗体を最終的に選び出した。解析の結果、選抜した人工抗体の97%は武漢型だけでなく英国型のウイルスにも強く結合した。ワクチン効果を下げる可能性が指摘されている南アフリカ型にも63%が結合したという。
今回の成果について研究グループは、独自技術により、変異株への効果も期待できる高性能の人工抗体を10日間で取得できるようになったと強調。今後は重症化予防や重症患者らを対象にした治療薬開発につなげる研究を続ける方針だ。
また、研究過程ですべての感染者が中和抗体を獲得するわけではなく、再感染に関係している可能性も示唆され、感染防止対策上の課題が明らかになったとしている。
研究グループは保田教授のほか、同大学大学院医系科学研究科の下岡清美助教(免疫学)、坂口剛正教授(ウイルス学)、岡田賢教授(小児科学)、溝口洋子助教(同)、同大学トランスレーショナルリサーチセンターの横崎恭之教授、西道教尚助教、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の橋口隆生教授らで構成され、広島県内の庄原赤十字病院や広島県立広島病院も参加した。
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