北海道大学は5月13日、ダイエット用成分として知られる不飽和脂肪酸「共役(きょうやく)リノール酸」の一種である「cis-9,trans-11CLA」を、アルツハイマー病マウスモデルに摂取させたところ、脳内炎症を抑制する生理活性物質「抗炎症性サイトカイン」が誘導されることを見出したと発表した。
同成果は、岩手医科大学薬学部の藤田融助教、東京大学大学院 薬学系研究科の可野邦行助教、京都大学大学院農学研究科の岸野重信准教授、大阪産業技術研究所 森之宮センターの永尾寿浩総括研究員、岩手医科大学薬学部のXuefeng Shen氏、同・佐藤千春氏、同・畠山初音氏、同・太田夢氏、同・新堀聖氏、同・野村綾子氏、岩手医科大学薬学部/盛岡赤十字病院の菊池光太氏、岩手医科大学医歯薬総合研究所の安野航氏、東大大学院 薬学系研究科の高鳥翔助教、同・菊地一徳氏、東京理科大学理工学部の佐野良威講師、東大大学院 薬学系研究科の富田泰輔教授、北海道大学大学院薬学研究院の鈴木利治特任教授、東大大学院 薬学系研究科の青木淳賢教授、名古屋市立大学医学部のKun Zou准教授、東大大学院 薬学系研究科の名取俊二氏、北大大学院 薬学研究院 認知症先進予防解析学分野(株式会社デメンケア研究所寄附講座)の駒野宏人客員教授(岩手医科大学元教授)らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
厚生省が2019年6月に発表した資料「認知症施策の総合的な推進について」によれば、日本国内の認知症患者は2025年には患者数が675万人から730万人にもなると推計されている。そうした認知症患者のうちの約7割がアルツハイマー病と見られており、予防法・治療法の開発が健康・医療の問題だけでなく、社会経済的にも解決すべき喫緊の課題となっている。
アルツハイマー病はタンパク質「アミロイドβ」が引き起こす神経機能障害が根本原因と考えられている。そして認知機能障害の憎悪には、脳内に沈着するアミロイドβが誘発する炎症が関わっていることなどが明らかになってきているが、その根本的な治療手段は開発途中の段階であり、科学的エビデンスに基づいた予防法が少ないのが現状だ。
一方、これまでに複数の異性体を含む共役リノール酸混合物は、末梢でさまざまな生理活性を示すことが報告されてきたが、中枢の脳神経系で機能を示す異性体の同定は未解明だったという。
そこで共同研究チームは今回、ヒト型アミロイドβを産生するアルツハイマー病マウスモデルに、高純度の共役リノール酸異性体「cis-9,trans-11CLA」(c9,t11CLA)を含む飼料を8か月間与え、脳内のアルツハイマー病に見られる病理的特徴の変化の解析を行ったという。
その結果、c9,t11CLAを摂取したマウスでは、摂取しなかった対照群のマウスと比較して、脳内アミロイドが減少したことに加え、抗炎症性サイトカインの増加が認められたとする。これは、アミロイドβを減らし、さらに同タンパク質が引き起こす脳内炎症を予防する効果があることが示されたということになるという。
なお、今回の研究成果は、アルツハイマー病の予防と早期治療への活用が期待できると研究チームでは説明しており、c9,t11CLAを摂取できるサプリメントや治療薬の開発を行うことで、アルツハイマー病の予防に効果的な認知症の予防・治療への効果が期待でき、高齢者のQOL向上と社会経済的負担の軽減が期待できるようになるのでは、としている。