色素は世の中に溢れています。辺りを少し見回してみてください。洋服、机、食べ物、壁とどんなものにも色素は使われています。日常に溢れており、日々接している色素も、実は日夜研究が進み更なる進化を遂げているのです。その一端をご紹介します。

最も白い塗料

光の 98.1 % をも反射する塗料が2021年4月、アメリカ・パデュー大学の技術者によって開発されました。この塗料は可視光だけでなく熱を伝える赤外線も反射し、物体が日光で温められるのを防ぐため冷房などに役立てることが期待されています。

  • 最も白い塗料を持つXiulin Ruan教授

    最も白い塗料を手に持つ開発者のひとりであるパデュー大学のXiulin Ruan教授(出典:パデュー大学)

研究チームは化粧品や顔料などに広く用いられる硫酸バリウムに着目し、これを塗料に用いることで従来の炭酸カルシウムを用いた塗料よりも高い反射率を示すことを突き止めました。この塗料の白さは、硫酸バリウムの粒子が不均一なことに由来します、光を拡散する量は粒子のサイズに依存するため、様々な粒子サイズが混じっているほど、様々な光のスペクトルを散乱させることができるのです。

新しい青色天然着色料

名古屋大学の吉田久美 教授らが、2021年4月に10 年にわたる国際的な研究の末に赤キャベツのアントシアニンから青色天然着色料「P2-A1錯体」を発見しました。

食品着色料として、これまで青色は天然色素による発色が困難であったため、合成着色料である青色1号が使われてきましたが、今回発見された青色天然着色料は、この青色1号に代わると期待されています。 赤キャベツのアントシアニンはこれまでも赤~紫の食品着色料として使われてきました。しかしながら、10 種類以上の成分が混ざる色素混合物であるため、透き通った青色を発色させることはこれまでできませんでした。

個々の成分を調べた結果、アントシアニンのアルミニウム錯体が青色 1 号と一致する色を示し、この色素だけを純粋にかつ大量に調整する方法が研究されました。今回発見された青色天然色素は発色がよく、保存安定性も非常に優れているため、産業利用可能であり極めて有望な色素だと分かっています。

  • 「P2-A1錯体」

    青色天然着色料「P2-A1錯体」(出所:名古屋大学)

3000 前年前の紫

2021 年の1月に、イスラエルのティムナ渓谷にある遺跡「奴隷の丘」で、鮮やかな紫色に染められた羊毛が発見されました。

これは今から 3000 年前に地中海の巻き貝から取った、「貝紫」と呼ばれる染料で染められていることが明らかになっています。 このことは、イスラエル考古学庁とテルアビブ大学、バルイラン大学の共同研究チームが化学分析によって突き止めました。

周辺の遺跡から貝塚が発見されており、貝紫による染色が行われていたと推測されていましたが、直接証拠が見つかったのは今回が初めてです。羊毛の紫は衰えておらず、貝紫が長持ちする優良な染料であることが示されました。 日本でも、巻き貝が堆積した縄文時代の貝塚が見つかっており、古くから貝紫が使われていた可能性が指摘されています。

  • 紫の羊毛

    イスラエルのティムナ渓谷で見つかった貝紫で染色された羊毛(出所: テルアビブ大学、写真提供: Israel Antiquities Authority)

今回ご紹介した3つの色素のように、色素の世界は非常に奥深い物です。身の回りに溢れた色を、最先端の研究に思いを馳せながら見つめ直してみるのはいかがでしょうか?

参考

パデュー大学 ニュースリリース
名古屋大学 ニュースリリース
テルアビブ大学 ニュースリリース