MBS(毎日放送)は、2017年にMBS メディアホールディングスを発足し、認定放送持株会社化した。その後、放送から派生するその他の事業領域への進出を目的に、事業開発のための投資会社MBSイノベーションドライブ(MID)をグループ内に設立。MIDを通じてVRソリューションを活用して事業展開するジョリーグッド、SNSレイティングデータベースの開発、構築、運営やSNSプロモーション支援サービスのレポハピ、音声配信サービスを事業展開するRadiotalk、食事業をプロデュースするTOROMI PRODUCE、スポーツ事業に取り組むMGスポーツなど、さまざまな業種の会社に投資し、事業の多角化を進めてきた。
そして、MBS メディアホールディングスは2月、MIDを通じて、デジタルマーケティングを行うVogaroの発行済株式総数の過半数を取得し、グループ会社化した。
そこで、MBSメディアホールディングス 梅本社長に、Vogaroへの資本参加の背景やMBSの今後について聞いた。
なお、Vogaroとの提携においては、ストライクがMBSのM&A仲介役として、契約書・M&Aスキームの草案や提携戦略の作成などに携わった。M&Aの場合、買収側、譲渡側企業の利害が対立することは珍しくないため、条件面の調整役にもなったという。
テレビ広告とニーズに応じたデジタル広告を組み合わせていく
MBSメディアホールディングス 代表取締役社長 梅本史郎氏は、Vogaroへの資本参加の背景について、「テレビ業界の将来を考え、2017年に認定放送持株会社化したことが背景としてあります。これには、いろいろな新規事業への出資の意思決定を早くしたいという狙いがありました。その一環としてVogaroへの出資があり、われわれに欠けていたデジタル広告分野への進出が可能になりました」と説明する。
Vogaroは、2005年にWebメディア制作会社として設立され、現在はWebメディアのUI・UXの設計、SNS運用設計から動画CM制作などのマーケティング支援を手掛けている。
今後MBSでは、Vogaroのノウハウを活用し、テレビCMの効果検証やそれを補完するデジタルマーケティングを行っていく方針だ。
「これまでのマスに向けたテレビ広告と、個々のニーズに応じたデジタル広告を組み合わせていけたらと思っています」と、梅本社長はVogaroとの協業の狙いを語る。
デジタルマーケティングを手掛ける数多くの企業の中でVogaroを提携の対象に選んだのは、VogaroがMBSと同じ大阪を拠点にして点と、デジタルマーケティング領域において多様な機能を有している点を評価したからだという。
今回の提携で中心となって動いたMBS イノベーションドライブ 代表取締役 日笠賢治氏は、「以前からネット広告に注目していましたが、いい会社がありませんでした。Vogaroは大阪にあり、UIやUXなど幅広い機能をもっている点から提携しました。そういう会社と提携できたことはラッキーだったと思います」と述べた。
両社の協同活動は、すでに開始されている。
「リモードですが、ECサイトの再構築や放送との連動などについて毎日のように打ち合わせはやっています。また、テレビ社、ラジオ社とも広告営業との連動について話し合っています。Vogaroにとっても、放送を利用することで、これまでのデジタルマーケティングでは扱えなかった規模の仕事ができるようになっています」(日笠氏)
Vogaroは今回の提携を機に営業体制を刷新し、グループ各社との連動により新たな顧客獲得を目指し、新事業の共同開発、マーケティング支援、デジタル化、クライアントへの共同提案などを通じ、これまで挑戦できなかったデジタル分野に積極的に取り組んでいく。
では、MBSのテレビ放送とVogaroのデジタルマーケティングをどう組み合わせていくのか?
日笠氏は、「ラスクルさんがやっているノバセルというというサービスはわれわれにとっては非常にインパクトがあるものでした。テレビを見た視聴者がどういった流れでクライアントのWebサイトにたどり着いたのかを分析してほしいというニーズは少なからずあります。最近では、好むと好まざるとにかかわらず、CMがデジタル中に置かれるようになってきました。テレビはいまだに多くの人に圧倒的なリーチができ、Webへの流入にはかなりの効果があります。実は検索、facebook、インスタなどよりも費用対効果は高いのではないかと思います。それを活かすために、テレビCMによってどのようにクライアントのページに行き、コンバージョンにつながったかを分析できるようにしていきたいと思います」と述べた。
梅本社長は、これまで長年地上波をやってきたことにより培った信頼感が、デジタルマーケィングにおけるテレビとしての強みだとした。
さらなるデジタル化
MBSは在阪テレビ局の中では、番組のオンデマンド配信にいち早く取り組んでおり、2011年以降の番組は、ほとんどデジタル化されているという。
梅本社長は、オンデマンド配信により、新たな価値も生まれていると話す。
「今後は番組自体も多様化していくでしょうし、これまでわれわれが捨てていたコンテンツが再び注目されるという現象も出てきました。例えば、ドラマは製作費も高く、視聴率が取れないということで、在阪社の中では一番早く撤退しましたが、配信することによって新たな価値が出てきました。配信専用のコンテンツを作ったほうがいいという意見は社内にもありますが、これまで地上波で培った放送法の基準に従ったコンテンツにわれわれのノウハウがあり、それにより信頼感を得ていると思います」(梅本氏)
そして、今後はコンテンツ以外のデジタル化にも取り組むという。
「コンテンツのデジタル化はこれまでやってきており、在阪社の中ではかなり進んでいると思います。ただ、今後は何が起こるかわからないので、それに対応するための体制は整えておきたいと思います。DX化は急いでやらないといけないと思っています」(梅本氏)
事業の多角化では、ECサイトのように、テレビと直接関係のない領域で消費者にアプローチしていく可能性もあるという。
「MBS メディアホールディングスを設立した当初は、これまでのわれわれと縁のないビジネスには進出せず、地上波から派生するところで事業を展開していきたいという思いがありました。ただ、それから4年が経ち、世の中の変化もあり、メディアをもっと広く捉えるべきではないかという意見もあり、EC事業なとも視野には入れたいと思っています。すでにトライは始めていますが、今後、投資していく領域だと思います」(梅本氏)
そして梅本氏は最後に、デジタル化によってテレビ業界の制約を超えていきたいと語った。
「われわれのスタートは地域メディアです。テレビは、地域と時間という制約を超えようとしていますが、ネットメディアはそれを軽々と越えています。今後、IT化でそれに取り組んでいきたいと思います」(梅本氏)