米製薬大手ファイザー製の新型コロナウイルスワクチンを2回接種した人の90%以上が変異株に対する「中和抗体」を保有していたとの研究結果を、横浜市立大学の研究グループが12日発表した。英国株などの変異株は従来のウイルス株に合わせて作られたワクチン効果を弱める可能性が指摘されていたが、ワクチンは変異株に対しても予防効果が期待できることを示すデータとして注目される。
厚生労働省は12日、これまでに国内で見つかった変異株のゲノム解析での確認は、検疫での発見例を含めて3500例を超えたと公表した。同省によると、国立感染症研究所は変異株をリスク評価し「懸念される変異株(VOC)」と「注目すべき変異株(VOI)」に分類。VOCを「感染性や重篤性が増す、ワクチン効果を弱めるなどの性質が変化した可能性がある株」として、英国株や南アフリカ株、ブラジル株、フィリピン株などをこの部類に入れた。また感染力が強いとされるインド株についても12日、VOIからVOCに移行分類して警戒を呼び掛けている。
横浜市立大学学術院医学群の⼭中⽵春教授や梁明秀教授、宮川敬准教授、同大学付属病院の加藤英明感染制御部⻑らの研究グループは、現在国内で進んでいるワクチン接種は従来株に対する有効性は確立しているが、変異株に対する効果に関する情報が少ないことから、国内で最も多く見つかっている英国株のほか、南アフリカ株やインド株など7種類の変異株に対するワクチン接種効果を調べることにした。
山中教授らは、人工的に作り出した変異株を使う独自の中和抗体迅速測定システム「hiVNT新型コロナ変異株パネル」を開発。これを活用して3月以降、ファイザー製ワクチンの接種を受けた未感染の日本人医療従事者105人を対象に、血中に7種類の変異株に対する中和抗体があるかどうかを解析した。
その結果、2回の接種を終えた人は接種1週間後に99%が従来株(欧州型)に対する中和抗体を保有していた。感染力の強い「N501Y変異」があり、国内で多く見つかっている英国株や南アフリカ株、ブラジル株の3つの株に対しては、90~94%の人が中和抗体を持っていた。最近問題になっているインド株についても調べたところ、97%の人が抗体を持っていたという。
研究グループによると、7種類の変異株と従来株の全ての株に対して中和抗体があった人は約90%に達した。その割合は接種1回目より2回目の方が目立って高くなることも分かり、2回接種の重要性も明らかになったという。
今回の研究はワクチン接種後の感染の有無を実際のウイルス変異株で確かめたわけではなく、ワクチンにはファイザー製とは異なるメカニズムのものもあることから、実際の接種効果の実態とは異なる可能性はある。実験レベルではあるが、変異株に対するワクチン効果への懸念が大きかっただけに、貴重なデータを提供した形だ。
山中教授らは、ワクチン接種は変異株に効く可能性が高く、集団免疫にも期待が持てるとの見方を示し、ファイザー製以外のワクチンの効果や中和抗体の持続期間なども調べるという。また、今後も登場する可能性が高い新たな変異株に対するワクチン効果の判定にも活用できるとしている。
一方、厚生労働省は12日、ゲノム解析で確認された都道府県別の変異株数を公表した。それによると、11日までに国内で見つかった変異株は3211例。検疫所で発見されたのは317例で合計3528例。このうち英国型は3119例、南アフリカ型は23例、ブラジル型は69例だった。これらの確認統計数には含まれていないが、このほか感染が急増するインドで猛威を振るうインド型の変異株も検疫所で66例、国内で4例見つかっており、国内で増えているのではないかと懸念されている。
また国立感染症研究所は12日までに、国内にまん延している新型コロナウイルスの90%以上が「N501Y変異」を持つ変異株に置き換わった、などとする詳しいデータを同省に報告している。
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