順天堂大学は5月13日、同大本郷・お茶の水キャンパスの職員を対象に実施した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査の結果、適切なシステムの下で十分な感染防御対策を行っていれば新型コロナウイルス診療の最前線に従事する医療従事者の感染リスクは一般人と同等であることが示されたと発表した。
同成果は、同大安全衛生管理室の福田洋 特任教授、瀬山邦明 教授、臨床検査医学科の田部陽子 教授らによるもの。詳細は英国科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版で公開された。
新型コロナウイルス感染症患者の治療や検査に従事する医療従事者は、感染のリスクが高くなるとされており、海外の流行国で報告されている医療従事者の場合、抗体陽性率は英国で6%、ベルギーで6.4%、米国で33%などと報告がされている。しかし、現状、日本における医療機関での医療従事者の感染既往については十分な調査が行われていないという。
そこで研究チームは今回、同大本郷・お茶の水キャンパス職員健診(2020年7月~8月に実施)において受診者4,188人中4,147人(医師1,111人、看護師1,308人、検査技師236人、その他の医療従事者314人、事務職員510人、研究者632人、その他36人)を対象に新型コロナウイルスの抗体検査として、新型コロナウイルスのヌクレオカプシドタンパク質に対する抗体の陽性率の調査を行ったという。
その結果、対象となった4,147人のうち、抗体陽性者は14人で、陽性率は0.34%であったという。また、抗体陽性率に有意な男女差はなく、年齢との相関もなかったとするほか、新型コロナウイルスへの曝露リスクが高い医療従事者と曝露リスクが低い環境で勤務している職員の間で抗体陽性率に有意な差は認められなかったという。
研究チームでは、新型コロナウイルス感染症診療(外来および入院)チームの医療従事者(医師、看護師)およびPCR検査に従事する臨床検査技師に抗体陽性者を認めなかったことは、注目すべき点と考えられると説明している。
また、今回の陽性率0.34%は、同時期に厚生労働省が実施した東京都、大阪府、宮城県の一般住民を対象とした抗体陽性率の調査結果(東京都0.30%、大阪府0.34%、宮城県0.23%)とほぼ一致していることも判明。海外の感染流行国の医療従事者の抗体陽性率の高さとは一致しなかったことから、適切なシステムの下で十分な感染防御対策を行うことで、新型コロナウイルス診療の最前線に従事する医療従事者であっても、その感染リスクを一般人と同等に下げることができることが示されたとしている。
これらの結果を受けて研究チームでは、医療従事者への新型コロナウイルス感染を制御するための感染対策の有効性と必要性を示すものであり、安全安心な医療を提供するために、適切な感染防御対策のもとで医療従事者の確実な感染防御を継続することが大切であると考えられるとしている。
なお、研究チームでは、今後、新型コロナウイルスに対するワクチン接種が進むことで、抗体検査の役割は、感染既往を調べることからウイルスに対する抗体を獲得できているかを調べることに移行すると考えられるとしており、そうした社会的な変化を踏まえ、ワクチン接種後にどのくらいの期間において十分な抗体量が産生、維持されるかといったことや、測定される抗体価と感染予防効果がどのように関連するかなど、感染予防についての調査研究を進めたいとしている。