新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、産業技術総合研究所(産総研)、東京大学の3者は5月10日、ネットワークの端末などに使われるエッジ向けAIチップの設計を容易にすることを目的に、AIチップに搭載されるAIアクセラレータ開発のための評価プラットフォームの実証に向け、仕様が異なる6種類のAIアクセラレータを同一チップに搭載した評価チップの設計を完了し、外部の製造会社で試作を開始したことを発表した。

半導体の高性能化はプロセスの微細化によってこれまで果たされてきたが、物理的な限界を迎え、新たな技術の活用などが求められている。一方で、持続可能な社会の実現のために、より低消費電力での動作が求められている。

中でもAIチップは、日本国内においても多くの中小・ベンチャー企業なども台頭するようになり、その開発に名乗りを上げる状況となっているが、実際に開発するためには、高度な技術はもとより、高額な回路設計ツールや検証装置などをそろえる必要があるため、中小企業やベンチャーが自らのアイデアをチップとして具現化する際の障壁となっている。

こうした背景を受け、NEDOは産総研と東大と共同で、AIチップ開発加速に向けた「AIチップ開発加速のためのイノベーション推進事業」を進めている。具体的には、東京大学浅野キャンパス内にある武田先端知ビルに「AIチップ設計拠点」を設立。半導体設計に必要な共通基盤技術の開発や、回路設計支援用のEDAツール、標準IPコアなどからなる設計環境の整備が進められている。

そして、ベンチャー企業などが開発する独自のAIアクセラレータ向け評価プラットフォームの構築も、その一環として同拠点で開発が進められており、今回、その実証として中小・ベンチャー企業の協力を得て、6種類の独自AIアクセラレータを搭載した28nmプロセスを用いた評価チップ「AI-One」の設計が完了したという。

  • AIアクセラレータ

    AIアクセラレータ向け評価プラットフォームの活用イメージ (出所:NEDO Webサイト)

AIアクセラレータは、あくまで半導体の回路の一部であり、それを実際に動作させるためには標準システム回路を有するSoC(AIチップ)として具現化し、それを用いたシステムレベルでの評価を行う必要がある。

今回の研究では、評価プラットフォームとして、共通基盤技術となる標準システム回路、検証回路、テスト回路、および評価ボードなどが開発された。これらの共通技術が、中小・ベンチャー企業などにAIアクセラレータ向け評価プラットフォームとして提供されることで、各企業独自のAIアクセラレータ搭載チップの開発とそれを用いたシステムレベルでの評価の短期間実現が目標とされている。

具体的には、同評価プラットフォームを使うことで、各企業が設計した独自のAIアクセラレータ搭載チップを擬似的に作成できるようになるため、開発期間は従来比で45%以下に短縮できるほか、開発コストの低減も図ることができるようになるとしている。

  • Aiアクセラレータ

    エッジAI向け評価プラットフォームの基本パーツ (出所:NEDO Webサイト)

なお、イノベーション推進事業では、AIチップの開発加速に向け、AI-Oneを用いて、設計段階で見積もられた各アクセラレータの消費電力や動作周波数などをもとに、2021年9月ころに実チップを搭載した評価ボードでの検証を行い、実環境での性能評価を進め、その成果を踏まえ、より使いやすいエッジ向けAIチップの評価プラットフォームとして確立していきたいとしている。また、またAIチップ設計拠点としても、AIチップ設計に関する共通基板技術などの開発を進めることで、より使いやすいAIチップ設計環境を構築していくとしており、日本におけるAIチップ設計拠点の確立、ならびに日本での中小・ベンチャー企業などによるAIチップ開発の活性化を図っていきたいとしている。