東京大学 生産技術研究所(東大生研)は5月7日、長年未解明だった低温のガラス中での結晶化が、2つの結合したステップで構成される、拡散を伴わない秩序化のドミノ倒し的な繰り返しによって起こることを発見したと発表した。
同成果は、東大生研の田中肇教授(現:東大生研 シニア協力員/東大 先端科学技術研究センター シニアプログラムアドバイザー(特任研究員)/東大名誉教授)、同・トン・フア特任研究員(現:中国科学技術大学 准教授)、中国・復旦大学のタン・ペン准教授、同・ガオ・チョン大学院生、同・リー・ミンフアン大学院生、同・タン・シーシャン大学院生、同・チェン・ヤンシャン大学院生、同・ファン・ジーピン大学院生、北京大学のシュー・リーメイ准教授、同・アイ・ジンドン大学院生、香港中文大学のシュー・レイ教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、材料科学と材料工学を扱う英科学誌「Nature」系の学術誌「Nature Materials」にオンライン掲載された。
物質は原子や分子が整然と配列された結晶と、乱雑なガラス(アモルファス)に分かれ、液体の温度を低温に急激に下げると、液体中の原子や分子の拡散が極端に遅くなり、そのため結晶化が阻害され、ガラス状態で凍結されることが知られている。ガラス状態は非平衡状態にあるものの、身近な窓ガラスが長時間にわたって安定して透明性を保ち続けることからわかるように、その状態は極めて安定であると考えられてきた。
このような低温の過冷却液体やガラス状態の安定性の起源は、低温においては原子や分子の運動性が低く、そのため結晶化に必要な液体から結晶への原子や分子の輸送が阻害されるためであると考えられている。一方で、ガラス中で結晶が高速で成長する現象「脱硝(だっしょう)現象」も知られている。
脱硝の機構解明は、基礎的には、結晶化という基本的な相転移のダイナミクスにおけるメカニズムの物理的理解という観点から重要なほか、応用面においても脱硝の阻止、低温結晶化による高品質結晶の作製という観点から重要とされているが、この問題は長年未解明のままだったという。
この問題の解決には、結晶化の素過程に微視的に迫ることが不可欠だが、ナノスケールで起きる現象の動的な過程を追跡することは困難であることから、研究チームは今回、原子の大きさを1万倍程度にスケールアップし、2μm程度の大きさのコロイド粒子に見立てた分散系を、共焦点レーザ顕微鏡を用いて、一粒子レベルの分解能で追跡することを試みたという。
その結果、低温における結晶化の動的な過程について、その全貌を実時間3次元観察によって明らかにすることに成功したとするほか、数値シミュレーションの結果と合わせることで、低温において高速な結晶化が起きるためには、結晶前駆体構造を持つ凹凸で厚い結晶成長界面の存在と、その成長後に結晶に閉じ込められた無秩序な欠陥を修復する能力が不可欠であることが判明したとする。
さらに詳細な調査の結果、超低温における結晶成長を可能にする鍵が、結晶成長界面の前駆体構造が本質的に機械的に不安定であることにあることが判明。これにより、ドミノ倒しのような繰り返し結晶成長モードが可能となることが明らかとなったという。
加えて、このような結晶成長モードを維持するためには、最初に形成された結晶の二次的な秩序化能力(欠陥修復能力)が不可欠であり、それがないと、閉じ込められた無秩序構造がどんどん蓄積され、結果として結晶成長プロセスが遅くなり、最終的には成長の停止に至ってしまうことも明らかとなったともしており、ガラスの安定性はさまざまな因子により決定されるとする。
なお、今回の発見は、結晶化という重要な非平衡現象の理解の深化のみならず、脱硝を回避した高安定ガラス形成や深い過冷却状態における高品質結晶作成などにつながることが期待されると研究チームでは説明しているほか、ガラスや結晶に関連した広範な産業応用分野にも役立つものとしている。