植物が雌しべで受粉した後、花粉管が、遺伝子の発現をつかさどる細胞核が先端部にない状態でも伸び続け、種子になる「胚珠」に到達できることを発見した、と横浜市立大学などの研究グループが発表した。花粉管は細胞核が先端部にあるため伸びるとする従来の常識を、実験に多用されるモデル植物のシロイヌナズナを使い覆した。
被子植物では雌しべ先端部の柱頭に花粉が着くと、胚珠へと花粉管が伸びる。花粉管の細胞核には、花粉管本体の核「栄養核」と、精子に相当する精細胞の核「精核」の2種類がある。花粉管は細胞核の中で遺伝子が発現して伸びると考えられるが、花粉管を壊さずにその仕組みを検証することは難しかった。
そこで研究グループはまず、精細胞に細胞壁の成分が乏しいことに着目。成分のうち多糖の一種「カロース」を過剰に作る遺伝子を発現させると、精細胞が花粉管の根元部分にとどまり先端に移動しなくなった。また、栄養核が根元にとどまる異常を示す変異体を使い、これにカロースを過剰合成する遺伝子を発現させることで、精細胞も栄養核も根元にとどまり、先端部に全く細胞核を持たない花粉管を作り出した。
花粉管が伸びると管内には隔壁ができ、先端部は分断される。このため細胞核が根元に残ると、先端部に遺伝子発現の産物は供給されなくなる。ところが、この場合でも花粉管は正常なものと同様に伸び続け、無事に胚珠に到達できた。花粉管が細胞核に頼らずに胚珠に届く潜在能力を持つことを発見した。
研究グループの横浜市立大学木原生物学研究所の丸山大輔助教(植物生殖学)は「隔壁があるので、新たな遺伝子産物が根元から先端に行くことはできないはずだ。花粉管が伸びる前に、細胞核の遺伝子から必要なタンパク質が作られてしまい、それが花粉管の先端に込められ維持されることで、花粉管は伸びていけるのだろう。かなりの驚きだ」と説明する。
この成果を受け今後、精細胞が花粉管内を移動する仕組みの解明などが期待されるという。また丸山助教は「被子植物より下等な植物では、動物のように精子を作り、これが鞭毛(べんもう)や繊毛(せんもう)を使って泳ぐものがある。被子植物は進化の過程でなぜかそれを放棄し、代わりに花粉管を伸ばすシステムを確立させたと思われる。その仕組みの理解にも役立つ知見になった」とする。
研究グループは横浜市立大学、立命館大学、名古屋大学などで構成。成果は英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に4月22日に掲載され、横浜市立大学などが23日に発表した。研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業、日本学術振興会科学研究費助成事業、笹川科学研究助成などの支援で行われた。
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