京都大学(京大)は5月10日、シール化することで容易に積層化できる「3次元ナノアンテナ」の作製新手法を開発することに成功したと発表した。

同成果は、京大 工学研究科の村井俊介助教、同・阿形健一大学院生(研究当時)、同・田中勝久教授らの研究チームによるもの。詳細は、国際学術誌「Journal of Applied Physics」にオンライン掲載された。

ナノサイズの金属や誘電体粒子を平面基板上に周期的に並べた構造は、光を平面内に強く閉じ込めたり、特定の方向へ集めたりする性質を有する。このような構造は、光に対するアンテナといえることから、「ナノアンテナ」と呼ばれ、先端の光技術として研究が進められている。

研究チームでは、ナノアンテナを照明に応用するための研究を進めており、これまでに黄色蛍光体基板上にナノアンテナを作製し、青色レーザーと組み合わせて、指向性白色光源を設計・試作に成功している。

この試作品は、蛍光体から放たれる黄色光が基板表面に作製されたナノアンテナの作用を受けて前方方向に集められ、青色レーザー光と均一に混ざることで、前方方向へ指向性を持った白色光を生成するという仕組みだという。さらに2021年1月には、多くの材料に自由に貼れて機能を発揮する「ナノアンテナシール」の開発にも成功している。

これまで研究チームのナノアンテナは2次元構造だったが、それを仮に3次元に拡張できれば、さらに自由な光制御が可能になるという。具体的には、ナノアンテナの上にもう一層ナノアンテナを作製すれば3次元構造を得られることになるが、実現のためにはナノアンテナはどのような基板の上にも作製できるわけではないという課題を解決する必要があったという。

そこでナノアンテナを重ねるための工夫として研究チームが新たに考え出したのが、ナノアンテナシールで、今回の研究では、ナノアンテナの上にシールを貼ってその上にもう一層ナノアンテナを重ねることで積層3次元ナノアンテナを開発することを目指したという。

今回はコンセプトの実証実験として、積層ナノアンテナによる発光制御効果を確認することを目的に、ナノアンテナ2層の間に発光層を挟んだサンドイッチ構造とし、2層の発光制御効果が同時に得られることを示すことにしたという。

  • 京都大学

    2層のナノアンテナに挟まれたサンドイッチ試料のイメージ。ガラス基板上に青色光に共鳴するナノアンテナを作製し、その上に発光層(画像中の黄色の層)を塗布、最後に赤色に共鳴するナノアンテナシールを貼って作製された。発光層はそれぞれのナノアンテナの効果を同時に受け、強く発光することが確認された (出所:京大プレスリリースPDF)

作製手順としては、まず石英ガラス基板上に青色光に共鳴するナノアンテナを作製し、発光物質として青色光を吸収し赤色を放つ色素を分散させた発光層を塗布、最後に赤色光に共鳴するナノアンテナシールが密着されることで試料が完成。このサンドイッチ試料からの発光により、それぞれのナノアンテナが掛け合わされた効果を受けることが実証されたという。

今回の成果を踏まえ、2枚のナノアンテナを重ねた時、両者の掛け合わせの効果が得られることが確認されたことで、積層ナノアンテナの設計について見通しがよくなったと研究チームでは説明する。そのため今後は、青色・赤色のそれぞれの波長でより強く共鳴するナノアンテナを開発し、積層した際の発光増強の最大化を狙うとしている。

また、発光層を薄くしていくと2枚のナノアンテナ間に相互作用が働き、積層ナノアンテナが個々のナノアンテナの掛け合わせでは記述できなくなるとのことで、これは積層ナノアンテナの設計を困難にする課題であると同時に、ナノ光学分野の新展開に寄与する可能性もあるとしており、今後は、別方向の研究として発光増強の最大化と並行して取り組んでいくとしている。