2021年2月3日、東北大学発の宇宙ベンチャーElevationSpace(エレベーションスペース)が宮城県仙台市に設立された。ElevationSpaceは、宇宙実験や製造などを行う小型のプラットフォームの提供を手がける宇宙スタートアップ。しかし、彼らの目的はプラットフォームの提供だけにとどまらない。ElevationSpaceとはどんなベンチャーなのか、どのような取り組みを目指しているのかについて紹介したいと思う。
宇宙ベンチャー、ElevationSpaceとは?
ElevationSpaceは、2021年2月3日に設立された東北大学発のスタートアップ宇宙ベンチャー。CEOを務めるのは、小林稜平氏。小林氏は、東北大学在学中に人工衛星の開発プロジェクトへの参画や宇宙建築物の研究に従事し、宇宙建築分野のコンテストにおいて国内1位、世界2位を獲得した実績を持つ。ほかにもTohoku Space Communityの立ち上げやNext Innovatorなどの各種プログラム・コンテストで受賞するなどすでに多くの功績を有する。
同社のCTOには東北大学准教授の桒原 聡文氏が就任。同氏は、中島田鉄工所や人工流れ星衛星のALE の技術顧問、UNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム)理事長などを務めている。
では、彼らは、どのようなビジネスを計画しているのだろうか。
それは、人工衛星で宇宙実験や製造などを行う小型宇宙利用・回収プラットフォーム「ELS-R」を活用したビジネスだ。 実は、現在このような宇宙実験や製造が行えるプラットフォームは国際宇宙ステーション(ISS)のみといっても良い。そして、今現在運用されているISSの運用は、老朽化や予算などの課題から2024年までの予定となっている。運用終了後は、Axiom Spaceというベンチャー企業が民間移管という形で、商業利用して行くことが決まっているが、NASAでは、2028~2030年まで運用を伸ばしたらどうかという議論もあるようだ。ISSの運用には未確定な要素もあるのだが、ElevationSpace は、ISSに代わる宇宙実験や製造を行うことができるプラットフォームの提供に着目している。
ElevationSpaceのサービス概要はこうだ。低軌道(LEO)に打ち上げた小型人工衛星内でELS-Rで宇宙実験や製造を行い、実験や製造終了後に地球に再突入し回収するサービスだ。ELS-Rでは、宇宙実験だけでなく、高機能材料の製造、エンターテイメントなどに利用することができるという。微小重力環境下などの地上では不可能な宇宙としての特徴、強みを活かした宇宙工場としての機能を強化して提供する方針だ。
このサービスの特徴、強みは、いくつか挙げられる。 “小型”であるため高頻度な打ち上げが可能となること、有人でなく無人であるため安全審査などが簡素化されることによる打ち上げまでの期間が短縮されること、多くの実験や製造をせず、限定的な実験や製造とすることで終了後の回収までの時間が短縮できること、などが挙げられる。
“愛する東北を宇宙産業で盛り上げたい” ElevationSpaceの熱い想い
ElevationSpaceのビジネスの取り組みは理解いただけただろう。実は、ElevationSpaceはもうひとつの大きな目的を持ってビジネスを進めている。 それは、東北にElevationSpaceの本社をおいてビジネスを行うことで、東北の経済に貢献していき、東北を宇宙産業で盛り上げていくことに取り組んでいくことだ。
実は、東北はとても宇宙との関わりが強いという。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の能代ロケット実験場、角田宇宙センター、国立天文台水沢、慶應大学先端生命科学研究所(毎年アストロバイオロジーキャンプを実施)、お米の青天の霹靂(衛星データを活用した米づくり)、福島イノベーションコースト構想などだ。ElevationSpaceは東北にこれほど、日本を代表する宇宙関連施設があるのに、あまり認知されていない、アピール下手、こんなことに課題意識を持ったようだ。
そのために、ElevationSpaceは、クラウドファウンディングサイト「CAMPFIRE」にてクラウドファンディングを実施した。 「一緒に東北の名産品を宇宙に飛ばしたい!」そんな想いで始めたという。現在開発中の技術実証機には空きスペースが少しあり、その空きスペースに東北の名産品を載せることを計画しているという。そして宇宙へと持っていくだけでなく、その後のマーケティングの支援も行い、その名産品を使って東北をさらに盛り上げていくのだ。 こんな熱い想いで始めた、クラウドファウンディングだが、先日2021年3月13日に開始し、終了期限を待たずに目標金額を達成し、約525万円の資金調達に成功している。 クラウドファウンディングで集めた資金は、ビジネスの第一歩となる技術実証機の費用の一部(東北の名産品の搭載費用)に活用するという。
また、ElevationSpaceは、東北でさまざまな活動を実施している。 例えば、Tohoku Space Community。CEOである小林稜平氏が立ち上げた組織だ。「東北を宇宙でワクワクさせる、宇宙へ熱い思いを持つ東北6県が宇宙へ」。こんな言葉がホームページからいきなり目に飛び込んでくる。東北と宇宙の関係を全国に情報発信し、様々なイベントを実施したりや東北の宇宙好きが集まる場を作ったりしている。彼らの努力の甲斐あって、2021年3月13日には東北最大級の宇宙カンファレンス「TOHOKU Space Conference 2021を実施するまで活動が大きくなったという。
また、事業での取り組みなどが評価され、2021年2月10日に開催された仙台市と01Boosterが主催する「東北グロースアクセラレーター2020」においての「WeWork賞」の受賞や、茨城県主催 IBARAKI Next Space Pitchでの準グランプリの受賞、2021年2月3日開催の第16回キャンパスベンチャーグランプリ東北での日刊工業新聞社賞の受賞、2020年12月23日、東北大学ビジネスプランコンテスト Vol.4にて準優秀賞、第一生命保険賞の受賞などと数多くの受賞歴があるのだ。
CEOである小林稜平氏は、将来について次のように語る。 「東北のこれからには新たな産業である宇宙産業が重要です。東北から世界中に事業を展開し、東北ひいては日本の経済に宇宙産業で貢献していきます。」
いかがだろう。ISSの代替ビジネスから、東北の地方創生、震災復興など社会貢献度性も視野に入れた魅力ある宇宙ベンチャーが現れた。今後の動向に注目したい。