九州大学(九大)は5月6日、「ペロブスカイト型スズ酸バリウム」をホスト材料として用いて、水素の陰イオン「ヒドリド」をドープし、結晶内に2価のスズを生じさせることによって、長波長の可視光に応答する「スズ含有ペロブスカイト型酸水素化物半導体」を合成することに成功したと発表した。

同成果は、九大 工学研究院 応用化学部門の林克郎教授、同・赤松寛文准教授、九大 中央分析センターの稲田幹准教授、九大 工学府 応用化学専攻の渡辺寛大学院生(当時)、東京工業大学の前田和彦准教授、同・八島正知教授、同・藤井孝太郎助教、同・中村将志大学院生、名古屋大学の長谷川丈二特任准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米化学会発行の国際学術誌「Chemistry of Materials」にオンライン掲載された。

太陽光の有効利用の観点から、広い波長範囲の可視光を利用できる光機能材料が求められており、可視光応答化の手段の1つとして、2価の鉛やスズ(Sn2+)といった、ローンペア電子(孤立電子対)を有する元素の利用が検討されてきたが、中でも有害な鉛を使用しないという観点から、スズをベースとした可視光応答型半導体材料が光触媒やペロブスカイト太陽電池の分野で盛んに研究されているという。

しかしこれまで、ローンペア電子を含むスズ化合物は酸化物やハロゲン化物に限られていたことから、研究チームは今回、良好な電子伝導性を持ちつつも元来可視光を吸収しないペロブスカイト型スズ酸バリウム(BaSnO3)をホスト材料として、長波長の可視光に応答するペロブスカイト型半導体の開発に挑んだという。

具体的には、ヒドリドが可視光吸収の発現や結晶構造の維持に必要不可欠であるという観点から、酸素欠陥存在下でホスト材料のBaSnO3にヒドリドをドープすることで、これまで難しかった構造の安定性やバンド構造の制御を実現したという。

また、結晶内にSn2+を生じさせることによって、目的通りの長波長の可視光に応答するスズ含有ペロブスカイト型酸水素化物半導体の合成に成功。これまでに報告されているSn2+を鍵とした化合物よりも長波長の可視光を吸収・応答することが確認できたとしている。

今回の成果を受けて研究チームでは、酸化物ホストへのヒドリド導入や酸素欠陥と複合化させることによる可視光吸収材料の合成手法は、無毒で安価な鉛フリー光吸収材料合成のための新たな設計戦略となることが期待されるとしている。

  • ペロブスカイト太陽電池

    (左)BaSnO3にあらかじめ酸素欠陥を導入した上で、ヒドリドをドープすることにより、結晶内のSn4+の一部がSn2+へと還元される。(右)無ドープ品は、可視光吸収を示さない白色粉末だが、ヒドリドをドープすることによって合成されたスズ含有ペロブスカイト型酸水素化物半導体は、約600nmまでの可視光吸収を示す、赤茶色の粉末となる (出所:九大プレスリリースPDF)