米宇宙企業スペースXは2021年5月5日(現地時間)、巨大宇宙船「スターシップ」の試作機「SN15」の高高度飛行試験に成功した。
これまでの試験では爆発が相次いでいたが、今回の飛行はすべて順調で、イーロン・マスク氏も「計画どおり!」と太鼓判。今年中に予定されている地球低軌道への試験飛行に向け、大きな前進を果たした。
スターシップとこれまでの試験
スターシップ(Starship)はスペースXが開発中の宇宙船で、直径9m、全長50mの巨体を特徴とする。
このスターシップをさらに巨大なロケット「スーパー・ヘヴィ(Super Heavy)」で打ち上げることで、最大100人の乗組員、もしくは100tの物資を積んで、地球低軌道や月、火星などへ飛行することができる能力をもつ。
さらに、スターシップもスーパー・ヘヴィも完全再使用が可能で、1回あたりの打ち上げコストは約200万ドルと、破格の安さを目指している。
実現すれば、スペースXが構想している月や火星への人類移住計画の要となるばかりか、あらゆるロケットを性能面、コスト面で時代遅れにするゲーム・チェンジャーとなる。
同社はまず、タンクやロケットエンジンなどの要素単位での開発から始め、その後すぐにそれらを組み合わせての飛行試験に移った。当初はタンクが破裂するなどのトラブルに見舞われたが、徐々に克服し、現在は「SN(Serial Number)」と名付けられた試作機シリーズによる「高高度飛行試験(high-altitude flight test)」が行われている。
この高高度飛行試験は、試作機を高度約10kmまで打ち上げたのち、機体を寝かせて降下。そして着陸直前に機体を立てて垂直に着陸するといった、一連の飛行の流れを確認することを目的としている。
同様の試験は今回が5回目。昨年12月には「SN8」が、今年2月にも「SN9」が同様の試験に挑んだが、いずれもトラブルで着陸に失敗。今年3月4日には「SN10」が、やや不完全ながら着陸に成功したものの、その後機体が爆発するという憂き目に遭った。
3月30日には「SN11」が飛行したが、着陸のためにロケットエンジンに点火した直後、空中で爆発し、失敗に終わっている。
スターシップSN15
こうした試験によって判明した技術的課題を受けて、スペースXでは大幅に改良した「SN15」を開発した。なお、SN12から14までは欠番となっている。
同社によると、SN15は「電子機器一式の性能向上、後部スカートの推進剤アーキテクチャの改良、エンジンの新しい設計と構成など、構造、電子機器、ソフトウェア、エンジンのすべてに改良を加えており、また製造から飛行までにかかる時間と効率も向上している」とし、またマスク氏によると「設計の改良箇所は何百にも及ぶ」としている。
また、SN11からは着陸方法にも改修が加えられた。SN10までは、着陸時に2基、ないしは3基のロケットエンジンに点火し、そして徐々に止め、最終的に1基のエンジンのみで着陸していたが、SN10ではその1基の推力が想定よりも低く、やや速い速度で地面にタッチダウンした結果、着陸脚が折れてしまう結果となった。
そこでSN11からは、同じ問題が起きても対処できるよう、まず3基すべてのエンジンに点火して状態を確認したのち、1基のみ停止させ、2基のエンジンを噴射させながら着陸するという方法に改められた。
そして日本時間5月6日7時24分(米中部夏時間5日17時24分)、SN15はテキサス州ブラウンズビル近郊にある同社の開発・試験施設、通称「スターベース」から離昇した。
これまでのSNシリーズの高高度飛行試験と同様に、SN15は3基のエンジンで上昇し、高度約10kmに到達する前に各エンジンを順次停止。そして、機体前部に取り付けられたヘッダー・タンクに、着陸に使う推進剤を移送したあと、機体を寝かせ、降下を開始した。
スターシップは、機体の前部と後部にそれぞれ2枚あるフラップを、鳥がはばたくように動かすことで空力制御を行うようになっている。SN15は巧みにフラップを開閉させながら、着陸場所へ向け、正確に降下していった。
そして、エンジンを再点火し、機体を立てる「フリップ・マニューヴァー」を実施。徐々に降下速度を落とし、離昇から約6分後、無事に着陸した。SN11では着陸前に爆発したため、エンジン2基で実際に着陸したのは今回が初めてだった。
着陸後、機体下部で小さな火災が発生したものの、その後消し止められている。
スペースXの創業者兼CEOであるイーロン・マスク氏は「スターシップは計画どおり着陸!(Starship landing nominal!)」とツイートし、喜びを露わにした。
スターシップの今後
マスク氏によると、今後数か月は「SN16」などの飛行試験を行う一方、より実機のスターシップに近い「SN20」の開発も進めており、今年後半には飛行試験を行いたいとしている。
SN20はスーパー・ヘヴィの試作機に搭載され、地球低軌道への飛行試験ができる能力があり、また耐熱シールドも装備し、大気圏再突入の試験も行う。
スーパー・ヘヴィの試作機も、数機が開発中である。
マスク氏は今年初め、「軌道への打ち上げは、比較的早くに成功する確率が高いが、軌道からの再突入と着陸を成功させるまでには、何度も試行錯誤を重ねることになるだろう」とツイートしている。
有人飛行の実現時期は未定だが、2023年ごろには、実業家でZOZO創業者である前澤友作氏と、公募で選ばれた8人を乗せた、月への飛行ミッション「dearMoon」が計画されている。
米国航空宇宙局(NASA)もスターシップに期待を寄せており、4月にはNASAを中心とした国際共同による有人月探査計画「アルテミス」の月着陸船として選定された。
マスク氏はまた昨年12月、「2022年には無人のスターシップを火星に送り込みたい。そして2026年、早ければ2024年には人類初の有人火星着陸を行いたい」とも語っている。
参考文献
・SpaceX - Starship
・Starship | SN15 | High-Altitude Flight Test - YouTube
・Elon Muskさん (@elonmusk) / Twitter