中国国家航天局は2021年4月29日、大型宇宙ステーションの最初のモジュール「天和」の打ち上げに成功した。
今後、実験室などのモジュールを続々と打ち上げて結合させ、2022年末までの完成を目指す。
さらに、今年5月には補給船の打ち上げ、6月には宇宙飛行士の滞在も予定。中国の有人宇宙活動は新しい段階に入った。
天和を搭載した「長征五号B」ロケットは、日本時間4月29日12時23分(北京時間同日11時23分)、海南島にある文昌航天発射場から離昇した。
ロケットは順調に飛行し、離昇から約494秒後に天和を分離。所定の軌道に投入しれた。
13時36分には天和の太陽電池パドルの展開に成功している。
中国宇宙ステーション
「中国宇宙ステーション」は、その名のとおり中国が構築を目指している宇宙ステーションで、宇宙飛行士の長期滞在のほか、宇宙医学、科学実験、技術実験に活用することを目的としている。
かつては「天宮」という名前で呼ばれていたが、最近では公式にその名が使われることはなく、単に「中国宇宙ステーション」とのみ呼ばれている。
高度約340kmから450km、軌道傾斜角41.5°の軌道で運用され、滞在できる宇宙飛行士は3~6人とされる。設計寿命は最低10年、また宇宙飛行士による適切なメンテナンスを行えば15年はもつという。
中国宇宙ステーションは、今回打ち上げられたコア・モジュールの「天和」のほか、実験室の「問天」と「夢天」、そして宇宙望遠鏡の「巡天」の、大きく4つのモジュール(部品)から構成される。完成時の質量は約90tで、現在運用中の国際宇宙ステーション(ISS)、かつてソ連・ロシアが運用していた「ミール」に次ぐ規模となる。
天和はステーション全体の根幹となるモジュールで、宇宙飛行士が生活したり、ステーション全体の制御や姿勢を司ったりといった役割をもつ。そのため生命維持システムや推進システム、通信システムなどが装備されている。
全長は16.6m、直径4.2m、質量22.5tで、中国がこれまで打ち上げた宇宙機の中で最大である。また船内は、最新の宇宙ステーションらしく、タッチスクリーンをもったコンソールがあるなど、ISSなどと比べ設備が近代的なものとなっている。
問天と夢天はそれぞれ、宇宙実験室として研究、実験設備をもつほか、宇宙飛行士が船外へ出るためのエアロックや物資の保管庫などの役割ももつ。これらは軌道上で天和と結合され、T字の形となる。
巡天は大型の光学宇宙望遠鏡で、米国の「ハッブル宇宙望遠鏡」に匹敵する性能をもつとされる。ただ、巡天は恒久的な結合はされず、ステーションと編隊飛行しながら宇宙を観測し、ときどき推進剤の補給やメンテナンスのためドッキングする。宇宙望遠鏡にとって振動は大敵であり、人が活動するモジュールと結合するのは得策ではない一方、宇宙飛行士がいれば修理や調整が簡単に行えることから、じつによく考えられたコンセプトといえよう。
現時点で、問天は2022年春ごろ、夢天は2022年の夏ごろに打ち上げが予定されており、夢天の結合をもって、ひとまず「完成」とされている。巡天は2024年ごろに打ち上げられる予定となっている。
なお、ミールやISSのように増築も可能とみられ、巡天の打ち上げ後も、追加のモジュールを打ち上げるという構想も出ている。
6月には早くも宇宙飛行士の滞在がスタート
問天、夢天の打ち上げに向けた準備が進む一方で、天和のみでも宇宙ステーションとしての機能をもつことから、中国では早くも運用を行う計画を立てている。
まず5月20日ごろには、無人補給船「天舟二号」を打ち上げ、天和と自律的にドッキング。食料や実験機器などの物資を送り届ける。
続いて6月10日ごろには、3人の宇宙飛行士を乗せた「神舟十二号」を打ち上げ、天和とドッキング。約3~4か月滞在し、機材の立ち上げや設定をしたり、天舟二号から物資を取り出しと、宇宙生活に向けた準備を整える。その後も天舟は、半年に1回ほどのペースで打ち上げられ、物資を定期的に送り届けるとともに、ステーション内で出たごみの処分も担う。
この神舟十二号には、聶海勝宇宙飛行士、鄧清明宇宙飛行士、叶光富宇宙飛行士の3人が搭乗する予定となっている。聶氏は、2005年に神舟六号で、2013年に神舟十号で宇宙を飛んだ経験のあるベテランで、鄧氏と叶氏は今回が初の宇宙飛行となる。
天舟補給船と同じく、神舟宇宙船も定期的に打ち上げられ、長期滞在する宇宙飛行士をローテーションさせる。
なお、昨年10月には、新しい宇宙飛行士の候補者18人が選抜されており、宇宙ステーションへの長期滞在に向けて訓練が続いている。従来、中国の宇宙飛行士は空軍のパイロットのみから選ばれていたが、この新しい宇宙飛行士候補には民間の技術者、科学者も選ばれており、宇宙ステーションの運用や、研究や実験を行うことを強く意識した人選となっている。