トヨタ自動車グループの豊田中央研究所(愛知県長久手市)は太陽光エネルギーを利用し、水と二酸化炭素(CO2)から有用な有機物であるギ酸を作り出す人工光合成の変換効率を、実用サイズで世界最高水準まで高めることに成功したと発表した。同研究所によると、変換効率は植物を大きく上回る7.2%で、この技術は工場から排出されるCO2を回収して資源化することも可能。「脱炭素化社会」実現に貢献するためにも早期の実用化を目指すという。
光合成は太陽光エネルギーを利用して水とCO2から新たな物質を合成する反応で、自然界の植物が炭水化物を作り酸素を出すことはよく知られている。人工の光合成では新たな物質を作る反応を促す触媒を使う。効率よく太陽光を生かして有用物質を生み出すため、どのような触媒を開発するかが実用化の鍵となる。
豊田中央研究所が開発した人工光合成の技術は、半導体と分子触媒を用いるのが特徴。CO2を含む水溶液に太陽電池とつながった還元電極と酸化電極を入れる。ここにエネルギーとして太陽光を当てることにより酸化電極では水から水素イオンができ、還元電極では水素イオンとCO2が反応して常温常圧下でギ酸が合成される仕組みだ。
2011年に行った原理実証実験で太陽光変換効率0.04%を確認。その後2015年には1センチ角サイズのセルで、既に植物を上回る4.6%を実現した。
この技術を実用化するには、人工光合成セルを、変換効率を低下させずに大きくする必要があった。同研究所はその後の研究開発で、電子や水素イオン、CO2を電極に素早く供給して効率的にギ酸を合成できるよう、太陽電池セルや電極の構造を工夫した。
その結果、36センチ角の実用サイズのセルで、このクラスでは世界最高水準の変換効率7.2%を実現した。今回開発に成功した新しいセル構造は、より大きなサイズにも適用可能で、工場などから排出されるCO2を回収し資源化するシステムへの応用も可能という。ギ酸は現在、抗菌剤や防腐剤などに使われているが、燃料電池の原料や水素の貯留・運搬手段としても活用する研究が進んでいる。
人工光合成は地球温暖化の原因となるCO2を利用するため、環境問題とエネルギー問題を同時に解決する「未来の技術」として、世界中で社会実装のための研究が進んでいる。日本でも産官学連携のプロジェクトなどでさまざまな技術開発が行われている。
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