米宇宙企業スペースXは2021年4月23日、有人宇宙船「クルー・ドラゴン」運用2号機(Crew-2)の打ち上げに成功した。
Crew-2には、星出彰彦宇宙飛行士ら4人が搭乗。24日の夜には、国際宇宙ステーション(ISS)へのドッキングにも成功した。
4人は、先に滞在している野口聡一宇宙飛行士と入れ替わる形でISSに約半年間滞在。星出氏は日本人2人目のISS船長としてクルーの指揮を執る。
クルー・ドラゴンCrew-2の打ち上げ
星出氏らを乗せたクルー・ドラゴンCrew-2は、同社の「ファルコン9」ロケットに搭載され、日本時間4月23日18時49分(米東部夏時間同日5時49分)、フロリダ州にあるケネディ宇宙センターの第39A発射施設から離昇した。
ロケットは順調に飛行し、離昇から約12分後にクルー・ドラゴンを分離。打ち上げは成功した。ファルコン9の第1段機体の着陸にも成功している。
打ち上げに際し、星出氏は「この日のために、昼夜問わず準備を進めてくれた全ての方に、感謝。そして、これから一緒に仕事をする全ての方に、よろしくお願いします! では、行ってきます。Go Crew2!」とコメントした。
打ち上げ後、クルー・ドラゴンは順調に飛行し、24日18時08分に、ISSへのドッキングに成功した。
打ち上げ成功に際し、NASAのスティーヴ・ジャージック長官代理は「昨年5月以来、ISSへ向けた3回の有人宇宙飛行に成功したことは、NASAと商業クルー・プログラムにとって素晴らしい一年となりました。今回の打ち上げは、NASA、スペースX、またESAとJAXAの国際パートナーにとって、そしてISSでの科学研究の未来にとって、重要な節目となります」と述べ、その成功を讃えた。
スペースXのCEOを務めるイーロン・マスク氏は「私たちのチームを心から誇りに思うとともに、NASAと連携し、JAXAやESAを支援できることを光栄に思います。有人宇宙飛行を前進させることに携わることができ、非常にわくわくしています。いつか人類が、地球軌道を超え、月や火星に行き、そして宇宙を旅する文明を持ち、複数の惑星に生きる種族になることを楽しみにしています」とコメントした。
クルー・ドラゴンCrew-2のミッション
クルー・ドラゴンCrew-2には、米国航空宇宙局(NASA)のシェーン・キンブロー宇宙飛行士とメーガン・マッカーサー宇宙飛行士、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の星出氏、そして欧州宇宙機関(ESA)のトマ・ペスケ宇宙飛行士の、計4人が搭乗している。
キンブロー氏はCrew-2の船長(コマンダー)を、マッカーサー氏はパイロットを務める。星出氏、ペスケ氏はミッション・スペシャリストとして、打ち上げから帰還までの間、機体の管理や、タイムラインやテレメトリー、消耗品のモニタリングを担当し、船長やパイロットを補佐する。
この4人は、ISSの第65次長期滞在クルーとして、10月31日ごろまでの約半年間滞在。星出氏は、第65次長期滞在のISS船長(コマンダー)を務める。JAXA宇宙飛行士がISS船長を務めるのは、若田光一宇宙飛行士に続いて2人目となる。
なお、現在ISSには野口聡一宇宙飛行士も滞在しており、野口氏らが地球に帰還する4月29日まで、ISSに2人のJAXA宇宙飛行士が滞在することになる。2人のJAXA宇宙飛行士が軌道上に同時に滞在するのは、2010年の野口氏と山崎直子元宇宙飛行士の事例に続いて2回目となる。
第65次長期滞在では、将来のアルテミスによる月面探査の準備や、地球の気候の研究、地球での生活を向上させるための重要な調査や技術の実証など、さまざまな実験や研究、そしてISSのメンテナンスなどのミッションに臨む。
今回のミッションでとくに注目されているのは、人間の臓器を模した生体組織(Tissue chip)チップを使った研究で、複数の種類の細胞が、生体内とほぼ同じように動作することから、宇宙環境が人体に与える影響などを調べることができる。
また、老朽化したISSの太陽電池を代替するため、新しい太陽電池アレイ6基のうち最初の1基を設置する作業も重要なものとなる。
また、ISSの日本実験棟「きぼう」では、次のような実験、研究が行われる。
JEM Water Recovery System
日本独自の次世代水再生システム構築に向けた技術実証。尿を、イオン交換、高温高圧水電解、電気透析の3段階の処理工程に通し、宇宙飛行士が飲用可能な水に再生する。また、電気透析で生成する酸/アルカリ水を利用してイオン交換樹脂を再生し、メンテナンスフリー化を目指す。将来的には、国際有人宇宙探査ミッションにおける基幹部分としての活用や、地球上でも水資源が限られる干ばつ地帯や山岳地帯、被災地などへ応用が考えられている。
FLARE
微小重力環境下での固体材料の新たな燃焼性評価手法の開発を行い、宇宙火災安全のための国際基準を提示することを目的とした実験。長時間の微小重力環境において、様々な固体材料の高精度な燃焼特性データを系統的に取得し、固体材料の燃焼限界条件が、通常重力環境からどのように変化するかを明らかにする。国際基準の構築・制定を日本がリードし、人類の新たな活動領域における安全・安心の確保への貢献を目指す。
Cell Gravisensing
宇宙生物学において大きな課題となっている「細胞がどのように重力を感知するか?」という謎を解明するための実験。現在、仮説としてあげられている「核・ミトコンドリアに対する重力作用の消失が、相互作用する細胞内骨格であるストレス線維の張力に影響を与える。さらに細胞内の小器官自体の機能や形態にも作用し、下流のシグナル系を賦活させ、細胞が重力環境を感知する」ということを実証することを目的としている。その成果は、宇宙飛行士に起こる筋萎縮・骨量減少の問題の解明や、地上での寝たきり状態での病態の予防・治療法の開発につながるとしている。
このほか、無重力や寝たきりによる筋萎縮の予防に有効なバイオ素材の探索や、高品質タンパク質結晶生成実験、超小型衛星放出ミッションなども予定されている。