順天堂大学と清水建設は4月22日、日常生活や業務の場面に感染対策があらかじめ織り込まれた建築「Pandemic Ready」の実現に向けた研究開発の一環として、室内の二酸化炭素(CO2)濃度分布と在室者の位置情報を基に、マイクロ飛沫感染と飛沫感染の両面から室内における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染リスクを評価し、建物空間内でのリスク分布をモニター画面上で可視化するシステムを共同開発したことを発表した。

同成果は、順天堂大大学院 医学研究科 感染制御科学の堀賢教授と清水建設の共同研究チームによるもの。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染対策として、室内においてはマスクや除菌が挙げられるが、抜本的な対策として、効果的な感染リスク低減手法の開発が求められている。

新型コロナの感染経路は、飛沫(直径5μm以上)、マイクロ飛沫(直径5μm未満)、接触とされており、飛沫やマイクロ飛沫の主な発生源は、人の呼吸や発話、咳・くしゃみなどである。また、感染リスクの大きさは、室内のCO2濃度と相関関係にあると考えられている。しかし、CO2濃度が低くなおかつ換気状態が良好であっても、在室者が密集・密接していれば、飛沫感染のリスクは残ってしまうという課題があった。

こうした背景のもと、研究チームは、施設利用者や管理者に空間内の感染リスクの大小をリアルタイムに提示し、状況に応じた対策や行動を促すためのツールとして、マイクロ飛沫感染と飛沫感染を統合した室内感染リスク分布の可視化技術を開発した。

同システムは、室内のCO2濃度分布からマイクロ飛沫感染リスク、在室者の位置情報から飛沫感染リスクを評価。マイクロ飛沫感染のリスク評価では、まず室内の複数か所に設置されたCO2センサによって、各場所のCO2濃度を計測し、そこに空間補間手法を用いて室内全体の濃度分布を推定。そして最終的に、新たに開発された計算手法が用いられ、在室者が吸引する可能性がある感染性粒子量の分布に変換するというものとなっている。

一方、飛沫感染のリスク評価では、近距離無線通信を利用した高精度測位システムで取得した在室者の位置情報がベースとなる。在室者同士の距離に応じて減少する飛沫の到達率が勘案され、飛沫由来の感染性粒子吸引量が算出されるという具合だ。

最終的に、飛沫、マイクロ飛沫それぞれに起因する感染性粒子吸引量を基に、室内各所の感染リスクを総合的に評価。リスクレベルを色分けした分布図をモニター画面に表示するというものである。

同システムを室内感染リスクのモニタリングに利用することで、たとえば、フリーアドレスオフィスの利用者が、入口のディスプレイや個人のスマートフォンで室内の状況を事前に確認し、リスクの小さい座席を選んで執務できるようになるという。

また施設管理者も、空調の外気導入量の調整や窓開けのタイミングを適切に判断できるようになるとする。さらに、モニタリングデータと空調機器を連携させることで、リスクの高い空間を局所的に換気する自動制御機能も構築することも可能だ。

こうしたモニタリングを目的とした常設利用に加え、1~2日程度の仮設利用により、感染リスクの高い場所を特定し、感染症対策の改善を図ることにも利用できるという。

今回の共同開発では、堀教授の医学的知見と助言を基に、清水建設が感染リスク算出手法、空間補間手法による濃度分布作成技術を開発。堀教授と清水建設の共同研究である「Pandemic Ready」では、マイクロ飛沫の挙動解明にも取り組んでいる。その成果も今回のシステムにフィードバックする計画で、リスク評価のさらなる精度向上につなげていくとしている。

  • 新型コロナ感染リスク低減ソリューション

    今回開発されたシステムによる感染リスク算出プロセス (出所:順天堂大学Webサイト)