米Xilinxは4月20日、独自のFPGA搭載SOM(System On Module)「Kria K26」を発表した。これに先立ちオンラインにて説明会が開催された(Photo01)ので、こちらの内容を元に説明したい。
XilinxはこれまでFPGAに関してチップのみの提供を行ってきており、これをベースにしたSOMやカードはサードパーティの役割であった。ところが2018年にFPGA搭載カードのマーケットにAlveoシリーズが投入された。この時の言い訳(というか、製品セグメント)はサーバ向けという話であり、実際にサーバ向け用途として投入されたため、あまりサードパーティのマーケットに進出という話にはならなかった。これに対して今回のKriaシリーズSOMは、かなり既存のサードパーティ品と被るマーケットに投入されることになる。
このあたりの話は後述するとしてまずは今回のKria K26(Photo02)について説明したい。
主要な特徴はこちら(Photo03)になる。
MultimediaおよびEmbedded Vision向けのZynq Ultrascale+ MPSoCということでQuad Core Cortex-A53+Cortex-R5F MP、さらにMali-400MP2とH.264/H.265対応のVideo Codecまで搭載したFPGAを実装し、さらに4GBのDDR4を搭載したSOMとなる。
SOMのパッケージサイズは77mm×60mm×11mmと比較的小さめであるが、裏面にDual 240pinのコネクタを実装。もともとZynq Ultrascale+ MPSoC EVは最大I/O Pinが252なので、必要ならほぼすべてのI/O pinを引っ張り出せる計算になる。
このKria K26 SOMはPhoto02にもある様にVision AI、つまりカメラと組み合わせたAI処理を中心に行う事を念頭に置いた製品であり、かつ試作から量産対応まで可能な製品(Photo04)となっている。実際SOMのカードサイズは、クレジットカードよりもちょっと短い(代わりに5mmほど太い)程度で、いわゆる監視カメラの類であれば十分内蔵が出来るサイズである。
もちろん、これだけだとサードパーティの製品と何が違うんだ? という話になる訳だが、まず民生向けと産業向けのグレードが用意されており、特に産業向けの方は必要な規格やサイバーセキュリティ要件に対応できるスペックが提供されること(Photo05)、すでにXilinxが提供している開発環境やツールがそのまま利用できること(Photo06)が挙げられる。
またあまりサードパーティのSOMでは見ない事だが、キャリアボードと一緒の形でのスタータキットが用意される(Photo07)というのはかなり便利かと思う。
こういう言い方もどうかと思うが、AvnetのUltra96よりお買い得感が高い様に思われる。ちなみに量産向けのモジュールの方は、250ドルと350ドルでそれぞれ提供されることになる(Photo08)。
産業向けのIグレードは-40℃~100℃の動作温度範囲と3年保証が提供されることになり、またPassive Heatsinkのみでの提供となる。
ところで開発環境についてもう少し。これは別にKria SOM専用という訳ではなく、Alveoでも同じ様に使える(ただカメラモジュールをどう繋ぐかは別途考える必要がある)し、Zynq Ultrascale+ MPSoCをチップで購入しても利用できる(さらに言えば、XilinxではなくパートナーのSOMでも理屈の上では利用できる)話だが、競合製品と比べて大きな性能面でのアドバンテージを持つ製品を短期間で構築できる、とする(Photo09)。
具体的に言えば、Kria(やAlveo)上では
- CPUだけでアプリケーションを実行する
- VITIS AIを利用して推論をFPGA Fabric側で実行する
- 推論の前後の処理もVITISを利用してFPGA Fabric側で実行する
- Vivadoを使い、ほぼすべての処理をFPGA Fabricで実行する
といった複数の開発環境の選択が可能である。(1)→(4)の順に性能は上がるが、その分開発時間も増える。なので許容される開発時間と性能のトレードオフになるが、逆に言えばそうした選択肢が増えるという話でもある。実際にXilinxおよびパートナーから、アプリストア経由でVision AIに向けたアプリが提供されており、これを利用することで目的の処理を迅速に構築することが可能になるとする(Photo11)。
性能として、実際にナンバープレート認識を実装した場合の性能比較がこちら(Photo12)とされており、よりEdge AIに適したソリューションである、としている。
また先にPhoto07で示した開発キットは、入手後1時間でデザインを実行できる(Photo13)というお手軽さが強みである、と同社は説明している。
なお説明会の後半ではTAIの中原啓貴氏より、同社が現在開発中のTAI CompilerがすでにStarter Kitに対応した事が説明され(Photo14)、実際に動作デモも行われた(Photo15)。
ところで冒頭の話に戻る。なぜXilinxがSOMを手掛けるのか? に対する答えがこちら(Photo16)である。
要するに今後急速に広がるマーケットであるから、というのがその答えである。それは判るのだが、その一方でXilinxが低価格でSOMを提供するのは、ある意味パートナーのビジネスマーケットを奪っているという見方も出来る。これを素直にKhona氏にぶつけたところ、「我々の製品で良いマーケットに対してスポットライトを当てるような効果を期待している」とした。要するにKria K26が、これまでSOMが使われてこなかった様なマーケットに入りこめれば、そこにパートナーがもっと差別化をした製品を投入することで、マーケット全体が広がる事が期待できる、という訳だ。
ただ現実としてStarter KitがUltra96とかDigilentのArty A7などの低価格開発ボードのマーケットと思いっきりぶつかっている現状では、やや説得力に欠けるきらいがある。
もっともこのあたりを考慮したのだろう。Kria K26のForm Factorは他のSOMとの互換性が無い独自のもので、また(Photo02に出てくる)今後登場するSOMも、コネクタに関しては互換性がある(ボードの寸法とか穴の位置はこの限りではない)という話で、なので既存のSOM規格向けにはKriaシリーズは利用できない事になっている。多分このあたりで既存のSOMメーカーのシェアを侵さない、という棲み分けを行うものと思われる。
このKria K26およびKV260 Starter Kitは同日より出荷開始の予定である(日本での価格や代理店などは現時点では不明)。