東京大学、北海道大学(北大)、東京理科大学(理科大)、工学院大学、宇都宮大学、清水建設、太平洋セメント、増尾リサイクルの8者は4月19日、水と二酸化炭素(CO2)と廃コンクリートだけで、完全なリサイクルを可能とするコンクリート「カルシウム・カーボネート・コンクリート」を製造する基礎技術を開発したことを共同で発表した。
同成果は、東大大学院 工学系研究科 建築学専攻の野口貴文教授、同・丸山一平教授、北大大学院 工学研究院 建築都市部門の北垣亮馬准教授、理科大 理工学部建築学科の兼松学教授、工学院大 建築学部建築学科の田村雅紀教授、宇都宮大 地域デザイン科学部 建築都市デザイン学科の藤本郷史准教授、清水建設 建設基盤技術センター 革新材料グループの辻埜真人グループ長、太平洋セメント 中央研究所 第1研究部の平尾宙部長、同・セメント技術チームの兵頭彦次リーダー、増尾リサイクルの増尾孝義専務取締役らの産学共同研究チームによるもの。
大型構造物の主要な建築素材として、セメントは全世界で年間45億t(2015年時点)が生産されている。そして1tのセメントを作るのに、温室効果ガスであるCO2が約800kg排出されているという。排出されるCO2の約50%が炭酸カルシウム(石灰石)の高温分解によるもので、そのほかが、石灰石の焼成や原材料の輸送に必要な燃料消費によるものとなっている。
現在までの人類の活動に由来するCO2排出量のうちの約5%がセメント生産によるものといわれており、セメントの生産によって大気中に排出されたCO2量は世界全体で約550億tになると推定されている。このような背景を受け、建設分野におけるCO2排出量削減に向けた技術開発が世界各地で進められている。
また日本においては、多くのインフラが高度成長期に建造された結果、それから約50年が経過し、なおかつ人口減少下にあることも手伝って、多くの地域で再開発やインフラのリニューアルなどが進められている。その結果、建設廃棄物として大量のセメント・コンクリート系廃棄物が出ているほか、地震や台風、津波などの自然災害による災害廃棄物としても大量のセメント・コンクリート系廃棄物が発生している。
これらのセメント・コンクリート系廃棄物を集積・回収して、新たな建設材料として活用しようという技術の研究が進められているが、広く分散してしまったカルシウムを有効利用する方法の開発は難しく、また、これらのセメント・コンクリート系廃棄物は、その製造時にCO2を排出しており、現在、その排出されたCO2は大気中に分散している状態にある。
高濃度のCO2ガスであればそれを利用する方法はすでに存在しているが、大気中に薄く広まったCO2の利用は難しいのが現状であり、そうした希薄な状態で大気中に分散しているCO2とカルシウムの有効利用は、長年にわたる技術課題とされてきたという。
2050年にカーボンニュートラル社会を実現することに貢献することを目的としたプロジェクトである産学8者が参加する新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のムーンショット型研究開発事業「C4SS(Calcium Carbonate Circulation System for Construction)研究開発プロジェクト」は、建設市場への新しい資源循環体系の導入を図ることで、この困難な問題の解決を目指して進められてきた。
同プロジェクトでは、薄く大気中に広がって存在しているCO2と、全国各地に存在しているコンクリート構造物を資源と見なし、それらと水のみを原料として、カーボンニュートラルとなる次世代コンクリートの研究開発が進められている。
今回の研究では、東大の丸山教授を中心とした開発担当チームによって、カルシウムを含むセメント・コンクリート系廃棄物、CO2ガス、水を材料とした硬化体を製造する技術が開発された。そして、その硬化体は「CCC(Calcium Carbonate Concrete:カルシウム・カーボネート・コンクリート)と命名された。
CCCの製造には、砕いた使用済みコンクリートの粒子間に炭酸カルシウムを強制的に析出させて一体化させることが特徴で、例えば使用済みコンクリートが過去に排出した CO2と最大で同等程度のCO2 を固定化できるため、コンクリートはカーボンニュートラルとなる可能性を有しているという。また、全国どこにでも存在しているコンクリートなどに含まれているカルシウムと大気中のCO2と水を原材料としているため、薄く分散した資源の遠距離回収を行う必要はなく、地産地消であることにも意義があるとするほか、CCCは将来にわたって何度でもリサイクルが可能なため、資源枯渇・廃棄物発生の問題も解消されるとしている。
そのため、研究チームでは、CCCを既存のコンクリート市場に組み込み、従来のセメント・コンクリートを徐々に置き換えていくことで、仮に2050年時点で半分をCCCにすることができた場合、年間2000万tのCO2排出量の削減に加え、年間620万tのCO2の固定化が可能になると試算しており、今後、CCCの製造プロセスについて、規模を拡大していくと共に、CCC部材の工場での製造技術、CCC構造物の建設技術、およびさまざまな関連技術の開発に取り組んでいくとしている。