東北大学は4月16日、日本の65歳以上の高齢者1万3594名を対象に、口腔状態の悪化が認知機能低下のリスクを増加させるのかについて、6年間の追跡調査を実施したところ、口腔状態が悪化した人の方が、しなかった人より主観的な認知機能低下の発生確率が高かったことを発表した。

同成果は、東北大大学院 歯学研究科 歯学イノベーションリエゾンセンター 地域展開部門/東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野の相田潤教授、東北大大学院 歯学研究科 国際歯科保健学分野の木内桜大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、「Journal of Epidemiology」に掲載された。

認知症の発症者は世界で約5000万人いるとされており、その数は2050年までに1億5200万人まで増えると推計されている。近年、「軽度認知障害」(MCI)は認知症の前段階として重要な状態として知られるようになってきており、MCIの発症を予防することが、将来の認知症発症を減らせる可能性があると考えられるようになっている。

また、近年の研究から、口腔の健康状態の低下と認知機能の低下や認知症発症との関連が多く報告されるようになってきたが、口腔の健康状態の低下や認知機能の低下も長期の経過をたどることから、因果関係を明らかにする手法として代表的なランダム化比較試験は困難だとされてきた。

そこで今回の研究においては、観察研究において未測定の時間不変の共変量(性格など)によるバイアスを取り除く方法である固定効果分析が使用する形で、口腔の健康状態の悪化が主観的な認知機能低下の発生確率を増加させるのかについての検討が行われた。

今回の研究では、日本老年学的評価研究(JAGES)のデータが使用された。対象は、2010年のベースライン時点で主観的な認知機能低下がないと回答した1万3594名の65歳以上の地域在住高齢者(男性:44.2%、女性55.8%。平均年齢は男性72.4(SD=5.1)、女性72.4(SD=4.9)歳)で、認知機能に関するさまざまな質問に対し、認知機能低下を示す回答をした人が主観的な認知機能低下ありとされた。

そして、嚥下機能低下や咀嚼機能低下、口腔乾燥感、歯の本数(20本以上/0-19本)との関連を、年齢・婚姻歴、等価所得・教育歴、高血圧・糖尿病の有無、飲酒歴・喫煙歴・日々の歩行時間の影響は除外された上で解析された。

質問紙調査を用いた6年間の追跡調査の結果、調査に参加した男性の26.6%、女性の24.9%で主観的な認知機能低下が見られたという。そして、嚥下機能低下、咀嚼機能低下、口腔乾燥あり、歯の喪失があった人で、主観的な認知機能低下が見られた人の割合を調査。それぞれの口腔状態の低下が見られた対象者は、そうでない対象者よりおよそ10%ポイントほど認知機能低下の発生が多かったが、この数字は年齢や既往歴などの差異を反映している可能性があるとのことで、関連する要因を考慮した解析を実施、以下のような認知機能の低下に関する結果が得られたという。

  • 嚥下機能が低下した人は、そうでない人より、男性では8.8%ポイント、女性では7.7%ポイント高い
  • 咀嚼機能が低下した人は、そうでない人より、男性では3.9%ポイント、女性では3.0%ポイント高い
  • 口腔乾燥感が現れた人は、そうでない人より、男性では2.6%ポイント、女性では6.4%ポイント高い
  • 歯を喪失した人は、そうでない人より、男性では4.3%ポイント、女性では5.8%ポイント高い
  • 認知機能

    口腔状態と6年後の主観的認知機能低下の有無のクロス集計 (出所:東北大プレスリリースPDF)

  • 認知機能

    口腔状態ごとの主観的認知機能低下の発生確率 (出所:東北大プレスリリースPDF)

  • 認知機能

    口腔状態の悪化の有無と主観的認知機能低下の発生確率。口腔状態が悪化した人の方がしなかった人より主観的な認知機能低下の発生確率が高かった (出所:東北大プレスリリースPDF)

今回の研究から主観的な認知機能低下は、将来の認知症発症リスクを高めるが、口腔の健康状態を維持することで主観的な認知機能低下を防ぐことができる可能性が示唆されたことから研究チームでは、これをさらに紐解いていくことで、将来の認知症発症リスクの減少につながる可能性があるとしている。