パナソニックは4月16日、一般的なシリコン(Si)の断熱性能を示す物性値限界を上回ることが出来るフォノニック結晶構造をSiウェハ上に量産適用可能な方法で形成し、遠赤外線センサの受光部に適用することで、受光部からの熱の漏れを約1/10に抑制し、従来のSiベースの遠赤外線センサ比で約10倍の感度向上が可能になることを実証したと発表した。
近年、材料にナノメートルオーダーの周期構造(フォノニック結晶構造)を組み込み、熱輸送の担体であるフォノンの伝搬を人工的に操作し阻害することで、従来の物性値限界を上回る断熱性能を実現できることが分かってきたが、フォノニック結晶構造の寸法制御性や作製スループットの限界により、フォノンの伝搬制御性を最大限に引き出せず、実用的な電子デバイスへの応用は難しいとされていた。
今回、同社では、ブロック共重合体の自己組織化プロセスを応用したナノパターンニングプロセスを採用することで、サイズを問わず大口径ウェハ全面を2種類の有機物によるシリンダー構造で被覆させる技術を開発したほか、シカゴ大学との共同研究によりそのシリンダー構造の直径を約26nm、シリンダーの整列周期を約38nmにまで微細化することに成功、フォノンの熱波動制御を最大化することを実現したという。
また、積層構造を有するSi(100nm)/SiO2(2000nm)/Si基板に自己組織化構造を形成し、遠赤外線センサの支持脚に転写することにも成功。これにより、フォノニック結晶を搭載しないSi遠赤外線センサの支持脚の熱伝導率は31.2W/mKであったのに対し、フォノニック結晶を搭載した独自構造では熱伝導率は3.6W/mKまで低減されたという。
さらに、パルスレーザー加熱による熱起電力を評価した結果、フォノニック結晶を搭載した遠赤外線センサは、通常の遠赤外線センサと比べて、熱起電力が約10倍にまで増加していることが確認されたとする。
なお、パナソニックでは、今後は同技術の活用により、目に見えない熱情報を見える化する新たなセンシングソリューションや、小型・高密度デバイスのサーマルソリューションへの適用を、パートナーとの共創も検討しながら目指していくとしている。