台湾南部の台南市にあるTSMCのFab14B P7で4月14日午前11時ころに停電が発生したと、台湾の経済メディアである「經濟日報」をはじめとする複数の台湾メディアが報じている。
この停電は数時間におよび、同社関係者によると、最大で3万~4万枚の300mmウェハが廃棄されることとなり、その損失は10億NTドルに上るとみられるとしている。ただし、この数値などは、あくまで14日夜時点での推測であると見られ、TSMCでは仕掛り中のウェハの被害状況については調査中であるとしている。
TSMCのFab 14B P7は同社の300mmの総生産能力の約4%、世界の300mmウェハファウンドリの生産能力の約2%を占める規模の工場で、主に40/45nmプロセスを用いて車載半導体やCMOSイメージセンサなどを製造しており、停電の影響次第では顧客への納品が3か月以上遅延する恐れがあるとする業界関係者もいるという。
また、近隣に配置されているTSMCのほかの工場は停電しなかったというが、同じ工業団地にあるほかの半導体メーカーの中には停電したところもあった模様で、そちらは無停電電源設備(UPS)や発電機への自動切り換えが行われたため、被害は軽微だという。
停電の原因は工事現場の作業ミスによる電源ケーブルの切断
この停電の原因について台湾電力(TPC)は、南部科学園区の変電所付近で、緯創資通(ウィストロン)傘下のネットワーク機器メーカーである啓碁科技(ウィストロンNeWeb:WNC)が新工場の建設を進めており、その工事を行っていた際に、161kVの地下ケーブルを誤って破損したためと説明している。
台湾の半導体市場調査会社TrendForceの調べによると、4月14日の午後7時30分までに工場の電源は完全に復旧したという。Fab14のディーゼル無停電電源装置(DUPS)は、停電発生直後にすぐに作動を始めたが、それでも短時間の停電と長時間の電圧降下は避けられず、その結果、クリーンルーム内の一部の製造装置が一時的に誤動作を起こす結果となったという。
ソニーやルネサス向け半導体も被害か?
TrendForceの15日夜までの分析によると、損傷が大きすぎて再加工できないウェハの廃棄により、TSMCの売り上げに1000万〜2500万ドルの影響をもたらす可能性があるという。また、生産に関しては、Fab14 P7は45/40nmプロセスと16/12nmプロセスの2ラインがあるが、そのうち45/40nmプロセスでは、車載MCUやCMOSイメージセンサなどの生産が行われていたと見られ、一時停止による影響を受ける可能性のあるクライアントとしては、NXP Semiconductors、ルネサス エレクトロニクス、ソニーなどの大手企業も含まれているという。特に、ソニーの40nm CMOSイメージセンサは、主にハイエンドのスマートフォン向けに提供されているものだという。ただし、ソニーは九州の自社半導体工場でもこれらの製品を製造しているため、TSMCがソニー向けに製造途中のウェハを完全に廃棄したとしても、ソニーのCMOSイメージセンサの供給自体には、大きな影響がない可能性があるという。
一方、ルネサスは3月19日に自社の那珂工場で火災が発生。その生産停止分を補うため、同社は自社の別工場での生産ならびにTSMCでの車載MCUの生産委託へと切り替えたばかりで、TSMCはFab14Bの生産能力の一部をこれらの生産に割り当てたばかりだとTrendForceは述べている。また、NXPからも車載半導体の製造を受託しているため、TrendForceでは、今回の停電事故が今後の車載MCU不足をさらに悪化させる可能性があると見ている。
車載半導体不足の解消は2023年か? TSMCは設備投資を300億ドルに引き上げ
なお、TSMCは、世界規模の半導体不足への対応に向け、2021年の設備投資計画を従来計画の280億ドルから300億ドルへと引き上げることを4月15日に発表している。また、併せて先端半導体製品の供給不足が解消するのは2022年、車載半導体製品などの非先端製品の供給不足が解消するのは2023年にずれこむとの見方を明らかにしており、当分の間、半導体不足は続くとの見通しを示している。