理化学研究所(理研)、東京大学、広島大学、台湾・國立彰化師範大學、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、情報通信研究機構(NICT)、米国航空宇宙局(NASA)の7者は4月9日、高速で自転する中性子星「かにパルサー」で発生する「巨大電波パルス(GRP)」に同期して増光するX線を検出したことを発表した。
同成果は、理研 開拓研究本部の榎戸輝揚理研白眉研究チームリーダー、同・フー・チンピン客員研究員(國立彰化師範大 助教)、東大 宇宙線研究所の寺澤敏夫名誉教授、同・浅野勝晃准教授、広島大の木坂将大助教、JAXAの村田泰宏准教授、NICTの関戸衛研究マネージャー、NASAのキース・ジェンドルーNICERチーム代表、同・ザベン・アルゾメニアンNICERチーム共同代表、ほか31人の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米科学雑誌「Science」に掲載された。
太陽の8倍以上の大質量の恒星がその一生を終えて超新星爆発を起こすと、ブラックホールや中性子星が残される。その中性子星の外側には強い磁場とプラズマに満たされた磁気圏があり、そこから電波やX線を放射しながら、磁気圏とともに高速で自転している。その1周にかかる時間は早いものだと数ミリ秒、遅くても数十秒といわれている。
そのため、中性子星からの放射がちょうど地球を向いているときに、自転に伴う機械のように正確な周期的パルスが観測される。その正確さは天然由来のものとは思えないほどで、発見当初は地球外知的生命体の存在も考えられたほどだという。そしてこのようなパルスを発生するタイプの中性子星は「パルサー」とも呼ばれ、また灯台のように周期的に光を発することから“宇宙の灯台”とも呼ばれている。
なお、パルサーはそれぞれ周期が異なることから、複数のパルサーの位置を確認することで、銀河系内での現在地の3次元座標を確かめることができることも知られている。
そうしたパルサーの中でも有名なものの1つが、おうし座の方向、地球から約6500光年の距離にある「かに星雲」の中心にある「かにパルサー」である。このかに星雲は1054年に起きた超新星爆発の名残であり、この超新星爆発は藤原定家の「明月記」にも記されているなど、記録が残されている数少ない銀河系内の超新星爆発である。
かにパルサーは、超新星爆発から900年以上が経った1968年に発見された。それ以降、電波、可視光、X線、ガンマ線など、電磁波のほぼ全波長によって観測が行われてきたものの、今もってかにパルサーの放射メカニズムはよくわかっていないという。
そんなかにパルサーの謎の1つが、周期的な電波パルスが散発的に通常より10~1000倍ほども明るくなる「巨大電波パルス」(Giant Radio Pulse:GRP)の存在である。ボース=アインシュタインの理論によると、電波の強度を上げるには放射源の実効的な温度を高くする必要があるが、GRPの電波の強度を温度に換算すると1037K以上になるとされ、現代物理が扱える温度の上限(プランク温度1032K)を超えることから、通常の放射メカニズムでは説明できないという。
また、すべてのパルサーがGRPを発生するわけではないことも分かっており、天の川銀河系で発見されている2800個ほどのパルサーのうちGRPを発生するのは十数個だけだという。
加えて、これまではGRPのようなパルスの増光現象は電波でしか発生しないと考えられてきたが2003年、高速度カメラを使うことでGRPに同期して可視光のパルスが数%だけ明るくなる現象を観測することに成功。それまでパルサーにおける電波とそれ以外の波長(可視光、X線、ガンマ線)の放射メカニズムは異なると考えられてきたことから、天文学者を驚かせることとなった。
そのため、よりエネルギーの大きいX線やガンマ線でも同様の増光が見つかるのかどうかに、大きな関心が寄せられていたが、過去20年間にわたって世界中が観測プロジェクトを実施してきたにも関わらず、X線やガンマ線での増光は確認することはできなかったという。
GRPに同期したX線やガンマ線を探索する上で難しい点は、従来の望遠鏡では十分な数のX線光子やガンマ線光子を集められなかったことだという。そこで開発されたのが中性子星内部の高密度な物質の状態を解明することを目的に、2017年に国際宇宙ステーション(ISS)に設置されたNASAの新世代X線望遠鏡「NICER(Neutron star Interior Composition ExploreR)」で、今回、研究チームは、2017年から約2年間、NICERと日本の2つの電波望遠鏡(JAXAの臼田宇宙空間観測所の64m電波望遠鏡と、NICTの鹿島宇宙技術センターの鹿島34m電波望遠鏡)を連携させ、合計15回に上るX線と電波の国際的な同時観測を実施した。
その結果、これまでで最大規模となる量のX線と電波の同時・多波長データを蓄積に成功したほか、解析の結果、GRPに同期してX線パルスが4%ほど増光していることを見出すことに成功したという。
今回のX線増幅率は可視光と同じくわずかだったものの、過去に行われたX線やガンマ線での観測よりも高い感度を持つNICERを用いたことが、初検出に至った大きな理由だと研究チームでは説明する。
また、今回の計測結果から、GRPの発生時に放出されるエネルギー量はこれまで考えられていたよりも数百倍以上大きいことが判明。これを受け、現在、GRPの放射メカニズムとして、パルサー磁気圏における高速プラズマの激しい噴出などを起源とする理論モデルがあるが、今後はX線の増光を説明できるようにする必要があると研究チームではしており、今回の発見は、プラズマ噴出・電波放射に伴う、パルサーでの高エネルギー粒子生成などについても新たな知見を与えることとなったとしている。
なお、今回の発見は、宇宙のはるか彼方で発生している謎の「高速電波バースト」(FRB:Fast Radio Burst)の解明にも重要な知見となるという。FRBは突然、宇宙の一方向から1ミリ秒程度、極めて明るい(強い)電波が放たれる現象だ。天の川銀河の外、宇宙論的な距離から到来していることはわかっているが、その起源は不明である。
FRBは天文学の歴史で久々に発見された新種の天体現象で、ここ数年における天文学の最も注目度の高いテーマの1つだ。GRPはFRBと似た現象であることから、FRBを説明する理論モデルの1つだと考えられてきた。しかし今回、GRPがこれまで考えられていたよりも莫大なエネルギーをX線で放出することが明らかになったため、単純なGRPのモデルではFRBの説明は難しいことも明らかとなったのである。
一方、中性子星の一種で、宇宙で最も強力な磁場を持つ中性子星「マグネター」のバースト活動は、FRBの候補として有力になりつつあるという。若く活発なマグネターで発生したGRPを、電波とX線の多波長観測で調べていく上で、今回の成果は重要な知見を与えるとしている。