東北大学は4月6日、希少金属のリチウムやコバルトを使用せず、資源性に富むカルシウムを用いた「カルシウムイオン電池」用の新規電解質として、水素とホウ素から形成された水素クラスターを含む錯体水素化物を開発し、高い伝導率が得られることを確認したと発表した。
同成果は、東北大 材料科学高等研究所の木須一彰助教、同・折茂慎一所長、東北大 金属材料研究所の金相侖助教、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のクン・ジャオ博士、同・アンドレアス・ズッテル教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
リチウムイオン電池は、それ以外の実用化されている蓄電池と比べて高い性能を有するが、リチウムやコバルトなどの希少金属を用いることから、資源の確保やコストなどの観点から課題が指摘されている。また、電気自動車のバッテリーとして利用するにしても理論的な電池容量の限界まで近づいており、さらなる高性能化を図るためには新たな蓄電池の実現が求められている。
カルシウムは地球の地殻中において5番目に多く存在すると見積もられている元素で、その金属電極は、低い酸化還元電位(-2.84V、標準水素電極基準)と、高い体積容量(2033mAh/mL)を併せ持つことが分かっていることから、次世代蓄電デバイスとして有望視され、カルシウム金属を負極として用いた蓄電デバイスであるカルシウムイオン電池(またはカルシウム金属蓄電池)の研究開発が進められている。
カルシウムイオン電池を実現するにあたってのボトルネックは高性能電解質(固体電解質もしくは電解液)をどうやって実現するかと考えられている。カルシウムイオン電池用の電解質として求められる特性は複数あり、それらの特性が1つでも欠如してしまうと電池として機能しなくなることから、そのすべての特性を兼ね備えつつ高い性能を発揮できる電解質の開発が求められている。
こうした背景を踏まえ研究チームは今回、フッ素を含まない弱配位性アニオンである水素クラスター(錯イオンとしてのモノカルボラン)「[CB11H12]-」を用いたカルシウム電解質「Ca[CB11H12]2」を合成。固体電解質および液体電解液のそれぞれの可能性について検討を行い、その電気化学特性を解明したとする。
イオン交換法および熱処理の最適化によって新たに合成されたCa[CB11H12]2電解質の伝導率を評価したところ、150℃において0.2mS/cmという高い伝導率が得られたという。
これは、これまでに報告されているカルシウムを含む酸化物系材料やCa[CB11H12]2と類似の水素クラスターを有するCa[B12H12]と比較すると、より低い温度でより高い伝導率であるとする。
また、カルシウムイオンに対して弱く相互作用する「ジメトキシエタン」や「テトラヒドロフラン」などの有機溶媒にCa[CB11H12]2を溶解させた電解液を調整し、カルシウム電解液としての検討を行ったところ、単体のジメトキシエタン溶媒およびテトラヒドロフラン溶媒に対してはほとんど溶解しないことがわかったほか、この2種類の有機溶媒を混合させると、Ca[CB11H12]2の溶解度が200倍ほど向上すること、ならびにそれぞれ単体の溶媒を用いたカルシウム電解液に比べて100倍程度高い伝導率であることが見出されたという。
さらに、その電気化学的安定性を分析した結果、高い還元性を有するカルシウム金属電極上において安定したカルシウム溶解析出挙動が見られたことに加え、4V以上の高電位においても高い酸化安定性を有していることが確認されたともする。
これらの結果は、Ca[CB11H12]2 in ジメトキシエタン/テトラヒドロフランが、「高いイオン伝導率」および負極・正極に対する「高い電気化学安定性」を有するとともに、カルシウムイオン電池の寿命向上に優位な「フッ素フリー」である電池材料であることを示すものであり、研究チームではこの結果を踏まえ、カルシウム金属負極と硫黄正極を用いたカルシウム金属-硫黄蓄電池を作製。その充放電特性を調べたところ、Ca[CB11H12]2 in ジメトキシエタン/テトラヒドロフランを電解液として用いたカルシウム金属-硫黄蓄電池が室温において安定に動作することが実証されたとする。
研究チームでは、今回の研究成果について、カルシウムイオン電池開発においてボトルネックであった電解質の課題を解決するものであり、今後この電解質を適用することで、さまざまな電極材料を用いたカルシウムイオン電池の開発が拡がるものと期待されるとしているほか、水素クラスターを用いたカルシウム電解質の設計指針を示す初めての報告であることから、今後は新しいカルシウム電解質群として、これらの水素クラスターを有する多様な錯体水素化物の系統的な研究が期待できるようになるともしている。