宇宙線を極めて高いエネルギー状態にまで加速する謎の天体「ペバトロン(PeVatron)」が銀河系内に存在する決定的証拠を発見した、と東京大学、中国科学院などの日中共同研究グループが発表した。天の川の方角に多数、史上最高エネルギーのガンマ線を観測し、宇宙科学で60年続いてきた議論に決着をつけた。さらに観測を続けてペバトロンの正体を突き止め、物理現象の解明を目指す。
宇宙線は宇宙を飛び交う、主に陽子からなる高エネルギーの放射線。約60年前の観測やその後の理論研究から、1ペタ(ペタは1000兆)電子ボルト(PeV)超の宇宙線を生み出す強力な天体の存在が指摘された。研究者らはこの天体をペバトロンと呼び、その存在をめぐって論争を重ねてきた。
宇宙線は星間物質と衝突するとガンマ線を放つ。ガンマ線は宇宙線と違い磁場の影響を受けず直進するので、観測すれば到来方向が分かる。ペバトロンが存在する証拠を得るには0.1ペタ電子ボルト以上のガンマ線観測が必要だが、宇宙線のノイズに阻まれ観測は困難だった。
研究グループは中国・チベット自治区の羊八井(ヤンパーチン)高原(標高4300メートル)に設置した装置で宇宙線やガンマ線を観測する「チベットASγ(エーエスガンマ)実験」を、1990年から継続。ノイズの宇宙線を100万分の1に低減するため、地下には素粒子の一種「ミュー粒子」(ミュオン)の検出装置を設置している。
2014~17年のうち2年分の観測の結果、約0.4~1ペタ電子ボルトの強いガンマ線を天の川の方角に23個発見した。これらは銀河系内の何らかの天体により、極めて高エネルギーの状態まで加速された宇宙線が起源と考えられる。このことから研究グループは、ペバトロンが過去か現在に銀河系内に存在する決定的証拠をつかんだと結論づけた。
約1ペタ電子ボルトのガンマ線は可視光の1000兆倍に相当する、観測史上最高エネルギーの光の検出となった。また観測されたガンマ線の量は、宇宙線が銀河系内の磁場によって数百万年以上、閉じ込められてから地球に届いているという理論の予測と一致したという。
南米ボリビアにも同様の観測施設を建設中で、チベットでは観測できない銀河系中心付近などを観測し、さらに強い宇宙線を放つ天体の発見を目指す。研究グループの東京大学宇宙線研究所の川田和正助教は会見で「ペバトロンが放出した宇宙線がつけた足跡、いわば恐竜の足跡を捉えた大発見となった。いずれ恐竜そのもの、つまりペバトロンを発見したい。今まさにペバトロンハンティングが始まった。これから熱い研究領域になる」と述べた。
研究グループは東京大学、横浜国立大学、日本大学、神奈川大学、中国科学院などで構成。成果は5日、米科学誌「フィジカル・レビュー・レターズ」の電子版に掲載された。
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