一般的に、日本の中小企業のデジタル化は遅れているといわれているが、実際はどうなのだろうか? 中堅・中小企業のITの現状に詳しい桜美林大学 ビジネスマネジメント学群長補佐 坂田淳一教授に話を聞いた。
同氏は、昨年12月から日本HPの中小企業向けのマーケティングコミュニケーション施策のアドバイザーとして情報の共有や企画のアドバイス、マーケティグコンテンツ(ビデオ等)への出演を行っている。
企業規模や業種によってデジタル化に差
坂田氏は、「中小企業といっても範囲が広く、売上10億円以下は小規模、10億円~50億円までがみなさんが考える中小企業、50億円~100億円だと中堅企業ということになると思います。売上が10億円を超えるような企業はデジタル化が進んでおり、10億円を下回る企業は、数は圧倒的に多いですが、デジタル化は遅れています」と、企業規模によってデジタル化に違いがあると説明した。
売上が10億円を超えるような企業は、2011年の東日本大震災以降ビッグデータの時代になってデジタル化が進み、さらに、2016年以降はIoTが注目され、製造業を中心にデジタル化が加速したという。
「そういう意味で、小規模企業とデジタル化で大きな差が生まれています」(坂田氏)
同氏によれば、業種によってもデジタル化の進展に差があるという。比較的進んでいるのは製造業で、遅れているのは、流通・小売だという。
製造業のデジタル化が進んでいるのは、デジタル化が売上に直結しているためだという。
「製造業は受託型で、大手企業が求める品質要求に応えるため、製造する部品などの精度を上げる必要があり、IoTなどを利用し、不良品の原因を突き止め、改善して歩留まりを改善する必要に迫られてきました。それはもはや、人間の目視では判別できないレベルで、画像をAIで判別しています」(坂田氏)
一方、流通・小売のデジタル化が遅れているのは、IT投資を行っても売上増に直結するかがはっきりしないためだという。ただ、Amazonや楽天など、最近のネット通販の台頭で、どういったものが顧客に買ってもらえるのか、顧客単価を上げるためにはどうすればいいのかなどを考えるようになり、2018年あたりからBIに興味を示し、クラウドシステムを導入するようになってきているという。
「最近は顧客マネージメントシステム(CRM)を入れ、ようやく顧客育成、顧客発掘を行うようになってきました。そういう意味で、中小企業のデジタル化は製造業が牽引し、流通・小売で本格化してきたというがここ2年くらいの流れです。大きな会社から始まり、小さな企業はこれからですが、クラウドでのサービス提供も増えてきたので、『始めてみよう』という機運が出てきました」(坂田氏)
そのほか、サービス業はEPARKなどのサービスが登場し、予約がインターネット経由になりつつあるので、比較的デジタル化は早かったという。
新型コロナウィルスによる変化
これまでデジタル化が遅れていた小規模企業も、新型コロナウィルスの影響で補助金やテレワークなど、どうしても対応せざるを得ない状況になり、デジタル化が進んでいるという。
「社員の在宅勤務への要求が強く、採用確保に苦戦している中小企業はテレワークへの対応を余儀なくされました」(坂田氏)
景気が減速してくると新たな投資は控え、コスト削減の方向に向かう企業が増えるが、コロナ禍で中小企業のデジタル化への投資意欲はどうなのだろうか?
坂田氏は、コスト削減という方向性は、明確に否定した。
「製造業では、小さな会社でも改革やカイゼンといったQC活動をこれまで随分やってきました。中小企業はこれまでITで効率化してコストを削減してきた部分があり、もはや削れるものがなくなっています」(坂田氏)
デジタル化の課題
デジタル化を進めていく上で、中小企業はどういった課題を抱えているのだろうか?
流通、小売や飲食はデジタル化が遅れているが、設備投資に見合うリターンが得られる投資が何かがわからないという課題があるという。
また、中小企業には人材不足という課題もあるという。
「ITの使い方がわかる人材と、このツールをどう使えば有効利用できるといったアイデアを出せる人材が不足しています。よく、このシステムによって顧客データが貯まります、売れ筋がわかりますといわれますが、それが分かったとして、次に何をすればいいのかという提案はありません。たとえば、こういった商品を開発したほうがいいですね、こういうサービスを付加したほうがいいですね、といった提案ができる人がほしいということです」(坂田氏)
中小企業のデジタル化ニーズ
では、中小企業はどういった領域をデジタル化したいのか?
坂田氏によれば、製造業はさらに生産性を上げ、歩留まりを改善するといったものづくりのデジタル化、それ以外の業種では、顧客開拓、顧客単価のアップなど、売上を伸ばす点がニーズが高いという。
デジタルが遅れている小売や流通に関して同氏は、「人口はどんどん減っているので、顧客分析をBIでやっていかないと生き残れないと思います。いまは、ほとんど使われていませんが、POSもアドオンでデータを解析するソフトは付いています。ただ、データを分析しても、そこから得られたデータを利用してどういう対策を打てばいいのかがわからないというのが実態だと思います。この部分は人間かAIだと思います。どうしたら客単価を上げられるのか、どういうお客さんにプッシュすればいいのか、逆にどんなお客さんはプッシュすると嫌われるかがわからないと結果は出ないと思います。これまでは、ITの投資額に対して得られるリターンが少なかったですが、クラウドサービスなども出てきて価格も下がってきたので、データを貯めていくことはできると思います。また、分析できるソフトも出てきたので、最近は、それをどう使っていくかという段階にきていると思います。政府もデータサイエンティストを増やさなければならないと言っています。企業で一番数が多い中小にBIを提供できるようにしていくことが、DXの進展と密接に関係すると思います」(坂田氏)
そして同氏は最後に、今後、中小企業ではAIの活用は必須だと訴えた。
「中小企業のデジタル化において、未来を見据えるのであればAI化は必須だと思います。データから答えを得ることを人間ができないのであれば、AIに頼るべきだと思います。AIが最適な情報を与えてくれるかどうかはわかりませんが、有利な情報はくれると思います。AIの活用は、この5年でかなり進むと思いますが、そのときにAIを学習させられるデータをもっていないと、AI活用はできないと思います。今すぐにデータを活用できないとしても、データを貯めておくべきだと思います。今後は、AIもコストも下がって身近なものになっていくと思います」(坂田氏)
こういった中小企業の動きについて、日本HPはPCベンダーとして中小企業をどう支えていくかについて、日本HP 専務執行役員 パーソナルシステムズ事業統括 九嶋俊一氏は、「クラウドによって、中小企業のみなさんが使いやすい状況が整ってきているのは良いことだと思います。メーカーにできるのは、パソコンとクラウドを組み合わせて新しいデジタルの場所ができる中、これをいかに手間をかけずに安全に使えるようにしていくかだと思います。そのために、パソコンの蓋を開けた瞬間に一定レベルの安全性が担保できるようにしていくことがメーカーの責任で、故障に対しても、どれだけスムーズに修理できるのかだと思います。そのために、PCの状態をメーカー側でとらえ、サポートに連絡があった段階ですぐに故障個所を指摘きるようにしていくことが重要だと思います。つまり、お客様の側に専門のスタッフがいなくても、PCの管理ができるようしていくことがメーカーとして一番大事なことだと思います」と述べた。