スギ花粉症がひどい人の鼻の中は大気汚染物質の鉛の濃度が高く、くしゃみなどの症状を悪化させている可能性がある、と名古屋大学と福井大学の共同研究グループが発表した。予防や症状を軽減する薬の開発につなげたいという。

研究グループによると、日本では2人に1人がスギ花粉症に悩んでいる。世界的にもスギ花粉症を含む季節性アレルギー性鼻炎は、全人口の10~30%が程度の差はあれ発症している。また、大気汚染物質の鉛、水銀、カドミウムなどの重金属はぜんそくのリスクを高めるとされている。

名古屋大学大学院医学系研究科の加藤昌志教授、福井大学医学部耳鼻咽喉科の藤枝重治教授、坂下雅文講師らの共同研究グループは、大気汚染物質がスギ花粉症の症状と関係があるのではないかとの仮説を立てて研究を開始。福井県内のスギ花粉症の症状がひどい患者44人と花粉症でない57人の計100人を対象にスギ花粉が飛散する前後の時期に鼻の中を洗浄した液を採取し、同時期の花粉の飛散量や採取サンプルに含まれる鉛や水銀などの量を調べた。

その結果、スギ花粉が飛散する前は花粉症患者とそうでない人の鉛濃度に差はなかった。しかし、飛散が始まった時期では患者の鉛濃度は花粉症でない人の約1.5倍になっていた。患者に症状などを聞いたところ、鉛濃度が高い人ほど、1日のくしゃみの回数や鼻づまりなどの症状が悪かったという。

研究グループはこうした症状の悪化と鉛の濃度との関係を明確にするためにマウスによる実験も実施。アレルギー性鼻炎を持つマウスと健常マウスの鼻に鉛を投与し、10分間のくしゃみや鼻こすり回数を調べた。

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    スギ花粉症の症状と鉛の関係を調べた研究の概念図(名古屋大学、福井大学提供)

すると、健常マウスは投与しても変化はなかったが、鼻炎マウスは投与前よりくしゃみ回数は2倍近く、鼻こすり回数も1.3倍ほど増加していた。また、鉛投与24時間後の鼻炎マウスの鼻汁の鉛濃度は健常マウスの4.3倍高かった。鉛以外の影響は確認されなかった。

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    鼻炎マウスは投与前よりくしゃみ回数は2倍近く(左のグラフ)、鼻こすり回数も1.3倍ほど増加していた(名古屋大学、福井大学提供)

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    鉛投与24時間後の健常マウスと鼻炎マウスの鼻の粘膜の鉛分布(名古屋大学、福井大学提供)

これらの結果から研究グループは、花粉の飛散量が増えると大気中の鉛が花粉に付着、さらに花粉症などで鼻の中で炎症を起こしていると鉛がとどまりやすくなって症状の悪化につながる可能性がある、とみている。

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