2018年にアラスカ湾で発生した巨大クラスの地震では、海底下で複雑な破壊が起こったとされながらその過程が解明できず、地震学者らが注目してきた。この地震のデータを基に、断層のすべりが断続的に加減速したことを独自手法で解明した、と筑波大学などの研究グループが発表した。海洋プレート(岩板)内で起きる地震の想像以上の複雑さを認識する成果となった。
地震が折れ曲がりや分岐、途切れのある断層帯で発生すると、破壊の過程は複雑になる。それを理解するための理論研究が進む一方、実際の観測データから把握するのは困難だった。こうした中、研究グループは断層の形状や破壊過程を同時に推定する解析プログラムを昨年、独自に開発している。
2018年1月23日にアラスカ湾で起こった地震(マグニチュード7.9)は、気象庁の資料によると、太平洋プレート内の深さ25キロで発生し、横ずれ断層型だった。極めて複雑な破壊があったとされながら過程が未解明だったこの地震について、研究グループは世界各地の地上の観測データ78点を基に、独自プログラムを一部改良して解析を試みた。
その結果、破壊開始後の65秒間に、少なくとも次の5回の破壊が複数の断層で断続的に起きたことが分かった。(1)まず震源付近で北向きの破壊が起き、開始後9秒で止まった。(2)北緯56度付近の東西に延びる断層の北側で、南向きの破壊が発生した。(1)と(2)の破壊は、東西に延びる断層に妨げられて止まったと考えられる。
その後は(3)同16~27秒に震源の北西部、(4)28~44秒には北東部、(5)44~52秒には北西部で、破壊が行き来するように起こっていた。(3)と(5)は東西に延びる断層を起点にして起きているが、その直交方向にも伝わる複雑な様子が確認できた。
一連の解析結果から、この地震では破壊が単発ではなく、複数の断層の付近で、スムーズでなく断続的に加減速を繰り返して起きた実態が明らかになった。破壊が伝わる向きが時間につれ変わる様子も分かった。海洋底の断層の不連続性が、破壊の進み方を複雑にした可能性がある。
今後はこの手法をインドネシア・スマトラ沖や南太平洋・バヌアツ諸島など他の地震の解析にも活用するという。研究グループの筑波大学生命環境系の八木勇治教授(固体地球物理学)は「地震はシンプルに破壊が進むとされていたが、全く様相の異なるものが見つかった。想像よりも地震は多様。どれだけの割合で、どんな所でこんな“変な地震”が起こるのか、理解することが重要だ。思い込みを取り払わないと地震の真の姿は見えてこない。地震破壊の複雑さや、海洋底の構造との関係を明らかにしていきたい」と述べている。
防災面では「地震動の予測はかなり単純化したモデルで行わざるを得ないが、必ずしもその通りの地震が起こるのでもない。実際の地震の多様性を今後の予測にどう組み込むかは宿題で、十分議論する余地がある」と指摘する。
研究グループは筑波大学のほか海洋研究開発機構、京都大学で構成。成果は英科学誌「サイエンティフィックリポーツ」に3月16日掲載された。
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