岐阜大学は3月29日、物質の性質を精密に予測する第一原理計算の手法を用いて、固体とプラズマの中間相である「Warm Dense Matter」状態にある金と銅の合金の安定性を明らかにしたほか、格子振動に関する解析的な理論を適用することで、同合金の構造が不安定化するメカニズムを解明したと発表した。
同成果は、岐阜大工学部 応用物理コースの小野頌太助教、同・小林大悟大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会発行の学術雑誌「Physical Review B」に掲載された。
一般的に物質は、固体、液体、気体、そしてプラズマの4つの状態があることが知られている。しかし、物質にはこの4つの相以外にさらに特別な状態があるという。それは、フェムト秒パルスレーザーを物質に照射した一瞬に見られるもので、非常に特殊な状態として「Warm Dense Matter」状態と呼ばれている。具体的には、電子は超高温状態(Warm)にあるが、イオンは固体(Dense)状態を維持しているという、固体とプラズマの中間の特殊な状態であるとされている。
ただし、金属がWarm Dense Matter状態になった場合、ピコ秒の単位で電子集団から陽イオン集団にエネルギーが流れ、すぐに融解して液体となってしまう。そのため、この構造物性についてはまだ十分に理解されたとは言えないという。
理論計算によれば、金(Au)や銅(Cu)などの単純金属がWDM状態にある場合、固体とプラズマの中間なので柔らかくなるイメージがあるが、その逆で固体状態よりも硬くなることが予測されていた一方で、室温下での結晶構造が体心立方格子構造である場合には、むしろ物質が不安定となり、別の構造に変化してしまうことが予測されていた。つまり、室温下での結晶構造と、Warm Dense Matter状態の安定性との間に、何らかの関係が存在することが示唆されていたという。
そこで研究チームは今回、結晶構造とWarm Dense Matter状態の安定性との関係についての理解を深めるため、金と銅による「AuCu合金」に注目。AuCu合金は、金および銅は面心立方格子構造、金と銅が1対1で混合したAuCu合金はL10構造、金3対銅1のCuAu3または反対の金1対銅3のAuCu3はL12構造が安定な構造を持つなど、その混合比に依存してさまざまな結晶構造を持つことが特徴だ。
この金と銅が1対1で混合した場合のL10構造は体心立方構造と類似するため、AuCu合金のWarm Dense Matter状態は不安定になることを予想。第一原理計算の手法を用いて、Warm Dense Matter状態のAuCu合金の安定性について詳細な分析が行われた結果、以下の2点が判明したという。
- CuAu3およびAuCu3(L12構造)は硬くなる
- AuCu(L10構造)は不安定
さらにL10構造の安定性に関する解析的な理論の構築が行われ、AuCuの安定性の起源の考察がなされた結果、以下の2点が判明したという。
- 固体状態ではAu-Au、Cu-Cu、Au-Cu間に作用する「長距離力」によりL10構造が安定化
- Warm Dense Matter状態では、原子間に作用する長距離力が弱くなる
これらのことにより、L10構造のWarm Dense Matter状態は不安定となることが判明したほか、Warm Dense Matter状態において金属が硬くなる要因は、原子間に作用する「短距離力」の増大として理解できることも明らかにされたとする。
研究チームでは今回の成果について、原子間に作用する長距離力と短距離力に基づき、固体状態とWarm Dense Matter状態にあるAu-Cu合金の安定性を統一的に理解できることが示されたとしており、今後は、L10構造を持つさまざまな合金に対して今回の理論を適用し、合金の安定性を詳細に理解することが課題となるとしている。