ルネサス エレクトロニクスは3月30日、3月19日に発生した同社の生産子会社であるルネサス セミコンダクタ マニュファクチュアリング那珂工場の300mmウェハライン(N3棟1階)の火災からの復旧に向けた状況説明を行った。

現在、全社をあげて急ピッチで再稼働に向けた修復作業が進められている那珂工場N3棟。そのかいもあって、火災でダメージを受けた天井の梁の構造材の補強は3月29日に工事を完了したほか、天井に敷き詰めるフィルターをはじめとするサプライ品の調達、ならびに工場内部の煤汚れに対する洗浄作業についてもおおむね順調に進捗しているという。

また、懸念されていた製造途中にあったウェハへのダメージについても、N3棟の1階、2階全体のプロセスを通じて存在していたおおよそ3/4程度が使用可能であると判断されたという。

ただし、大きな問題と考えられてきたのが焼損した製造装置の調達である。これについては、当初は焼損した製造装置は11台としていたが、焼損はしていなくても、煤によるダメージや製造工程で用いられる塩素ガスによる腐食などの影響が他の製造装置でも確認されたことから、合計で23台の製造装置を新たに調達する必要が生じたとしている(一部コンポーネントの付け替えなどを含む)。

また、N3棟1階には約390台の製造装置が設置されているが、そのうち90%強についてはすでに問題ないことを確認済み。残りの10%弱についても、近日中に動作確認を終える予定だとしており、全体として「クリーンルームの再開に向けては順調に作業が推移。当初目標として掲げていた1か月以内の製造再開の達成に向けた確度は大きく高まっている」(同社代表取締役社長兼CEOの柴田英利氏)とする。

4月には代替装置の搬入を開始

火災によって損傷した23台の製造装置について同社では中古、新品問わず、すぐにでも調達可能であるという前提で購入に向けて動いているとのことで(中には装置メーカーのラボで稼働していたものを融通してもらう場合もあるという)、4月末までに少なくとも11台が工場に設置され、立ち上がる予定だという。これらについては「生産再開のタイミングで立ち上がっていくと考えている」としている。また、5台の製造装置については、3月30日時点では5月の中下旬にかけての納入が見込まれているとするが、これらの装置についても可能な限り早いタイミングでの(柴田氏としては可能であれば4月中)納品に向けた交渉や協議を進めているという。

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    調達が必要となった23台の製造装置の内訳 (出所:ルネサス発表資料)

このほか、2台のCuめっき装置が6月まで納入がずれ込む見通しだが、こちらについても少しでも早いタイミングでの納入を目指し、スケジュールの短縮について協議を進めているという。残りの5台の装置については現段階では正式な納入時期の目安がまだ立っていないというが、「先になる、というわけではなく、それほど先の日程ではないタイミングでの納入が期待されるが、最終的な納期回答を調整もしくは回答を待っている段階にある」とし、具体的なスケジュールは示されていない。

生産再開時期はどうなる?

装置の搬入、クリーンルームの再稼働(クリーンルームの復旧は4月中旬をめど)などを経て、半導体の生産が再開されることとなるが、ウェハを投入したからといってすぐに製品となって出てくるわけではない。そのため、同社ではトランジスタ形成工程(FEOL、ベースレイヤー)に40日、配線工程(BEOL、メタル)に20日、ウェハテストに15日、組立・テストに15日というあくまで代表例としてだが、モデルケースを構築。4月末までに必要とする装置が納品される前提で考えた場合、火災発生から60日後には仕掛品の出荷が可能な状況に到達できるほか、火災発生から100日程度で火災前の製品出荷量の状況に戻せる見込みだとしている。

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    代表的なリードタイムを元にした生産再開に向けた見通し (出所:ルネサス発表資料)

ただし必要とする製造装置が5月、そして6月になる場合は、その分だけ後ろに生産がずれ込んでいくこととなり、火災前の製品出荷量に戻るのが遅れることとなる。「必要な23台の装置のうち、現時点で11台が4月末までに納品される。これから、もう少し多くの装置が4月中に納入されることが確定できると思っているので、このスケジュールから大きく逸脱することはないと考えている」(柴田氏)とのことで、比較的想定通りのスケジュールで再稼働にこぎつけられる可能性を示唆した。

もし、同社の目論見通りに工場の再稼働にこぎつけることができれば、現在の組立・テスト工程やウェハテスト工程の仕掛品在庫が30日分ほどあるため、まったく在庫がない時期は30日程度となる。

また、再稼働にあたっては無事が確認された3/4の仕掛品のウェハが先にラインに流されることとなるが、「基本は1階の残存仕掛品、2階の残存仕掛品という順。生産再開のタイミングで投入したウェハのリードタイムの短いものから、順次投入していく」(同)という計画を立てているという。

さらに、代替生産が可能な可能なものについては、順次代替生産でも実施する予定で、自社工場ならびにファウンドリの活用にもめどが立っている模様だ。N3棟で生産していた品目のうち2/3が代替生産可能なものとされており、そのうち内製で賄う分は、生産停止期間が1.5か月と想定すると、生産ロス分の82%分、仮に2か月の生産停止となった場合でも73%相当を代替生産で賄えるという。加えてファウンドリを活用した場合、1.5か月のロスを埋め合わせるのに十分な量を確保でき、もし2か月となった場合でも9割程度、再配線工程に至っては100%の代替生産が可能である見通しが立ったとしている。

ただし、短期的な代替生産の出荷は生産リードタイムなどの関係から難しいため、2021年第3四半期から第4四半期にかけて、年内いっぱいをかけて、失った生産分を取り返していく形になるという。

売り上げへの影響は最大240億円の試算

同社では、3月21日の説明会ではN3棟の月次売り上げについて約170億円としていたが、その後の精査で正確には130億円弱程度ということが判明。これを元に、1.5か月もしくは2か月の生産停止で生じる損失を試算したところ、195億円~260億円のインパクトとなるが、このうち20億円については製品在庫があるとしており、正味175億円~240億円のマイナスとなると見ている。

ただし、製造装置の納入が伸びるなどの問題が発生すれば、この金額も増えることとなるが、その一方で代替生産が進めば、その分の売り上げが寄与することになるため、全体としては試算結果よりも抑えられる可能性もあるとしている。

なお、同社によれば新たに搬入する装置は、必ずしも以前と同じ装置とは限らないという。那珂工場は40nmプロセスまで(日本国内でロジックプロセスでこれよりも微細なプロセスに対応している半導体工場はない)だが、世界ではTSMCの5nm EUVプロセスを筆頭にロジックプロセスの微細化が進んでいることから、中古装置もものによっては、従来使用していた装置よりも高性能なものになる場合があるという。ただし、すべてがそうというわけではなく、4~5割の能力を取り戻すことを目的としたつなぎとして導入する装置もあるとのことで、今回の調達はあくまで応急処置的な意味合いもある模様だ。

また、出火元となったCuめっき装置が、なぜ発火したのかについての詳細な原因は特定に至っていないとのことで、同社では引き続き、関連各所と連携し、調査を進めていくとしている。

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    消火直後の火災現場の様子。これが3月30日にはほぼきれいに撤去され、天井と足場の作業が同時並行で進められる状況まで復旧が進んだという (出所:ルネサス発表資料)