台湾のDRAMメーカー兼ファウンドリであるPowerchip Semiconductor Manufacturing Corporation(PSMC)3月25日、台湾新竹科学工業園区にて2,780億NTドル(約1兆円)を投じて300mmウェハ工場の建設に着手したと発表した。

同社グループにとっては15年ぶりとなる半導体工場の建設で、世界的に不足している半導体の供給量を増すための投資だとしており、最終的な生産能力は月産10万枚規模となることが見込まれているという。

新工場は2ファブ構成で、2022年9月に製造装置の搬入を開始、2023年からの生産を開始する計画。稼働当初の生産能力は月産2万5000枚ずつとしている。また、新たに3000名の雇用が創出され、年間600億NTドル以上の価値をもつ半導体チップが生産される計画だという。

あえてレガシープロセスを採用、少ない投資で大きく稼ぐ

同社のFrank Huang董事長は、顧客からすでに同工場の生産能力を確保するため打診があったと明らかにするとともに、顧客の半導体製造装置を借り受けて生産する「オープン・ファウンドリ方式」を採用すると述べている。

また、ファウンドリ最大手TSMCが最先端プロセスの新工場を建設していることにも触れ、ムーアの法則に沿って3nmプロセスを実現しようと思えば、その投資額は6,000億NTドルかかるが、25~55nmのレガシープロセスを使えば1,000億NTドル程度で済むとし、自動車、5G、AIoTなどを中心に、新たな半導体需要を生み出し、それが急速に拡大していることが世界の産業に構造的な変化を引き起こしていると指摘。25nm~55nmプロセスといった、ちょっと前までは先端プロセスで、今や成熟したレガシープロセスに対する需要も爆発的に増加しており、将来的にもこの傾向は続くとみられることから、従来、プロセスの微細化を図ることで取れ数を増やし、利益を向上させるというムーアの法則の在り方を改訂する必要があるともしている。

つまり、同社はムーアの法則に逆らってレガシープロセスを活用して(これを同社では「Reverse-Moore's Law(逆ムーアの法則)」と呼んでいる)、特に供給が逼迫している車載、5G、AIoT向けチップを生産することで、少ない投資で大きな利益を上げることを目指すということだという。

メモリとロジックの両方を手掛けるメリットを活かす

さらにHuang氏は、生産能力への投資に加えて、ウェハ製造業界が価値を高めるためにはイノベーションが重要であることを強調。「Powerchipは、メモリとロジックの両方のテクノロジーを備えたファウンドリである。提供するプロセスは最先端というわけではないが、独自の専門知識を活用してメモリとロジックウェハをスタックするインターチップテクノロジーの立ち上げにも成功している。こうした異種ウェハスタッキングは、チップ間のデータ転送のボトルネックを打ち破り、コンピューティング性能と電力効率を向上させることができるようになる。これは台湾のエンジニアリング力の強さそのものを示すものである」とも述べている。

なお、同氏は、最近の世界的な半導体不足の見通しについて、「半導体の受託生産価格は2020年末から3~4割上昇しているが、まだ適正水準に届いておらず、まだ上昇すると見ている。Powerchipのファウンドリファブでもディスプレイ用ドライバIC、電源管理IC(PMIC)、MOSFET、DRAMなどあらゆる製品の生産能力が満杯で、年内は生産能力不足が続くと予測している。しかも、今後、新型コロナウイルス感染症の世界的流行が落ち着くにつれ、世界各地で経済活動が再開し、需要はさらに増すこととなるため、半導体の不足は当分続くだろう」としている。また、新工場の起工式典に参列した蔡英文総統は、「台湾の半導体産業を守るため、過去56年で最も深刻な水不足問題の解決に全力を尽くす」と述べ、官民一体となって半導体業界のさらなる成長に向けて取り組んでいくことを強調している。