Industry 4.0や、生産現場でインテリジェントなセンサーがますます広く導入されていることについては、(筆者を含め多くの人が)さまざまに論じています。センサーの普及は製造工場や処理プラント、あるいは新しいビルオートメーションシステムを見ても明らかですが、こうしたセンサーの普及に伴う重要な変化の1つは、大量のIOを通常は従来と同じサイズのコントローラ内で処理しなければならなくなったということです。このIOはデジタルの場合もあればアナログの場合もあります。そのため、サイズと熱に関する制約の下で高密度のIOモジュールを設計する必要があります。そこで、今回は主にデジタルIOについて説明したいと思います。
通常、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)のデジタルIOは、抵抗やコンデンサなどのディスクリート部品によって調整され、また個別のFETを使用して駆動されていました。コントローラの実装面積を最小限に抑える必要がある上、実際に2~4倍のチャネル数の処理能力が必要なため、ディスクリート実装から集積化アプローチへの移行が進んでいます。
特に処理するチャネル数が1モジュール当り8個以上の場合には、ディスクリートアプローチの欠点について説明するのに丸々1本の記事を費やすこともできるでしょう。しかし、次の点を指摘するに留めます。すなわち、大きな熱/電力消費、サイズと平均故障間隔(MTBF)の観点から多数のディスクリート部品が必要となること、堅牢なシステム仕様の必要性から、ディスクリートアプローチはほぼ完全に実現不可能であるといえます。
図1は、高密度のデジタル入力(DI)およびデジタル出力(DO)モジュールを設計する際の技術的課題を示しています。サイズと熱は、DIとDOの両方のシステムで考慮事項になります。
デジタル入力については、タイプ1、2、3の入力と、場合によっては24Vおよび48V入力といったさまざまなタイプの入力に対応することが重要です。どの場合でも堅牢な動作仕様が重要で、断線検出が重要となる場合もあります。
デジタル出力については、システムはさまざまなFET構成を使用して負荷を駆動します。駆動電流の精度は一般に重要な考慮事項になります。また、多くの場合に診断機能が重要です。
ここからは集積化ソリューションがこうした課題にいかに有効であるかについて説明します。
高チャネル密度のデジタル入力モジュールの設計
従来のディスクリート設計では、抵抗分圧回路を使用して24V/48V信号をマイクロコントローラで使用可能な信号に変換します。前段でディスクリートのRCフィルタを実装する場合もあります。絶縁が必要であれば、外付けのフォトカプラを使用する場合もあります。
図2は、標準的なディスクリートアプローチによるデジタル入力回路の実装を示しています。
このタイプの設計は、ボード1枚当り4~8個といった一定数までのデジタル入力に適しています。その限度を超えると、設計の実用性は急速に低下します。こうしたディスクリート実装には、以下の課題があります。
- 大きな消費電力とそれに伴うボード上のホットスポット。
- 各チャネルに1つのフォトカプラが必要。
- 部品が多いために故障間隔が短縮され、外形の大型化になる場合もある。
さらに重要なこととして、ディスクリート型の設計アプローチでは入力電流が入力電圧とともに直線的に増大することが挙げられます。仮に2.2KΩの入力抵抗と24VのVINを想定すると、入力が1個、つまり24Vの際の入力電流は11mAで、これは264mWの消費電力に相当します。8チャネルのモジュールでは消費電力は2Wを超え、32チャネルのモジュールでは消費電力は8Wを超えます。次の図3を参照してください。
熱の観点のみから見ても、このディスクリート設計は1枚のボード上で複数のチャネルに対応することはできません。
集積化したデジタル入力設計の最大の利点の1つは、消費電力が低減され、それに応じて放熱も低減されることです。大半の集積化デジタル入力デバイスでは、入力電流制限を設定できるため、消費電力を低減することが可能です。
電流制限を2.6mAに設定すると、消費電力は減少して1チャネル当り約60mWになります。次の図4に示すとおり、8チャネルのデジタル入力モジュールでは定格電力を0.5W以下に抑えることができます。
ディスクリートのロジック実装が不利となるもう1つの理由は、DIモジュールではさまざまなタイプの入力に対応することが必要になる場合があることです。IECが公表している標準の24Vデジタル入力の仕様は、タイプ1、タイプ2、タイプ3に分かれています。タイプ1とタイプ3は、電流およびスレッショルド制限値が非常に似通っているため、通常はひとまとめにされます。タイプ2は電流制限値が6mAで、他のタイプをはるかに上回ります。ディスクリートアプローチでは、ディスクリートの大半の値を更新する必要があるため、再設計が必要になります。
これに対し、集積化されたデジタル入力製品は通常これら3つのタイプすべてをサポートすることができます。集積化デジタル入力デバイスでは、もともとタイプ1とタイプ3はサポートされます。しかし、タイプ2の入力に対する最小6mAの電流要件を満たすには、1つのフィールド入力に対して2つのチャネルを並列に使用する必要があります。そして、電流制限抵抗を調整します。ボードの変更が必要となる可能性はありますが、最小限のものです。
例えば、Maximが現在提供しているDIデバイスでは、電流制限値は3.5mA/チャネルです。そのため、システムがタイプ2の入力をインタフェースする必要がある場合は、図に示すとおり、2つのチャネルを並列に使用し、REFDI抵抗とRIN抵抗を調整します。一部の比較的新しい部品については、端子やソフトウェアを使用して電流値を選択することもできます。
48Vデジタル入力信号に対応する場合も(あまり一般的な要件ではありません)、同様に外付け抵抗を追加してフィールド側の電圧スレッショルドを調整するプロセスが必要になります。この外付け抵抗の値は、端子における電流制限値×R+スレッショルドがフィールド側の電圧スレッショルド仕様(デバイスのデータシートで規定)を満たすように設定されます。
最後に、デジタル入力モジュールはセンサーとインタフェースするため、堅牢な動作仕様に基づいて設計する必要があります。ディスクリート部品を使用して実装する際は、これらの保護を慎重に設計する必要があります。集積化デジタル入力デバイスを選択する時は、次のような産業用の仕様を備えていることを確認します。
- 広い入力電圧範囲(例えば最大40V)。
- フィールド電源(7V~65V)で動作可能。
- 高度なESD(±15kVエアギャップESD)およびサージ耐性(標準1kV)。
MCUが適切に動作することができるように過電圧および過熱診断機能を備えることも非常に有用です。
高チャネル密度のデジタル出力モジュールの設計
デジタル出力の標準的なディスクリート設計は、マイクロコントローラによって駆動される駆動回路を持つFETを備えています。このマイクロコントローラを駆動するためにFETを設定するには、さまざまな方法があります。
ハイサイド負荷スイッチとは、外部イネーブル信号によって制御され、電源を特定の負荷に接続/切断するものです。ローサイド負荷スイッチと比較して、ハイサイドスイッチは負荷に対して電流をソースします。一方、ローサイドタイプは負荷とグランドを接続/切断し、したがって負荷から電流をシンクします。どちらも1つのFETを使用しますが、ローサイドスイッチの問題は、負荷がグランドに短絡される可能性があることです。ハイサイドスイッチは負荷をグランド短絡から保護します。しかし、ローサイドスイッチの実装の方が若干低コストです。出力ドライバはプッシュプル型で構成される場合もあり、その場合は2つのMOSFETが必要です。次の図6を参照してください。
集積化DOデバイスは、1つのデバイスに複数のDOチャネルを内蔵することもできます。FETの構成はハイサイド、ローサイド、およびプッシュプルで異なるため、各タイプの出力ドライバを実装するために異なるデバイスが利用可能です。
誘導性負荷の消磁機能内蔵
集積化されたデジタル出力デバイスの主な利点の1つは、これらのデバイスに誘導性負荷の消磁機能が内蔵されることです。
誘導性負荷とは、導線コイルを備えた任意のデバイスです。通常、導通時に何らかの機械的作業を行うデバイスで、ソレノイド、モーター、アクチュエータなどが該当します。電流によって生じる磁場は、リレーや接触器の開閉接点を動作させたり、電磁弁を作動させたり、モーターのシャフトを回転させたりすることができます。多くの場合、エンジニアはハイサイドスイッチを使用して誘導性負荷を制御します。問題は、スイッチが開いて電流が負荷にソースされなくなった時にインダクタ内のエネルギーをどのように放出するかです。このエネルギーが放出されない場合には、リレー接点のアーク放電の可能性、大きな負電圧スパイクによる高感度ICの損傷、システム性能に影響する高周波ノイズやEMIの発生などの悪影響が想定されます。
ディスクリート実装で、誘導性負荷を放電させるための最も一般的なソリューションは、フリーホイールダイオードの使用です。この回路では、スイッチが閉じている間、ダイオードは逆バイアスがかかり、導通することはありません。スイッチが開くと、インダクタ両端の負電圧によってダイオードに順バイアスがかかり、蓄積されたエネルギーはダイオードの導通によって減衰していき、やがて定常状態に達して電流がゼロになります。
多くのアプリケーション、とりわけIOカード1枚当りの出力チャネル数が多い産業アプリケーションでは、このダイオードは物理的にかなり大型となることが多く、設計のコストとサイズを大幅に増大させます。
最新のデジタル出力デバイスは、一種のアクティブクランプ回路を使用してこの機能をデバイス内に実装しています。例えば、Maximは特許取得済みの安全な消磁(SafeDemag)機能を実装することで、デジタル出力デバイスが無制限のインダクタンスを備えた負荷を安全にターンオフすることを可能にしています。
デジタル出力デバイスを選択する際には、多くの重要な要素があります。以下のようなデータシート仕様を慎重に考慮する必要があります。
- 最大連続電流定格を見て、必要な場合に複数の出力を並列化してより大きな電流駆動を実現することができるかどうか。
- 出力デバイスが(温度範囲全体で)複数のチャネルを大電流で駆動することができるかどうか。データシートの仕様を参照して、オン抵抗、消費電流、熱抵抗の値が可能な限り小さいことを確認する。
- 出力電流の駆動精度の仕様も重要。
何らかの範囲外の動作状態から復旧するためには、診断情報も不可欠です。まず、診断情報は出力チャネルごとにレポートされる必要があります。これには温度、過電流、開回路、および短絡が含まれます。グローバル(チップ)ベースでは、サーマルシャットダウン、VDDの低電圧、SPIの診断などが重要な診断になります。集積化デジタル出力デバイスでは、この一部またはすべての情報を追求する必要があります。
プログラム可能なデジタル入力/出力デバイス
IC上にDIとDOを集積化すると、設定可能な製品を構築することが可能です。図7に、入力または出力として構成可能な4チャネルの製品の例を示します。
このデバイスはDIOコアを備えており、1つのチャネルをハイサイドまたはプッシュプルのどちらかのモードで、DI (タイプ1/3またはタイプ2)またはデジタル出力として構成することができます。DOの電流制限値は130mA~1.2Aで設定可能で、消磁機能が内蔵されています。タイプ1/3とタイプ2のデジタル入力の切替えは端子を設定するだけで、外付け抵抗は不要です。
これらのデバイスは設定の自由度が高いだけでなく、産業用の設定で動作することができるように堅牢化されています。すなわち、高いESD、最大60Vの電源電圧保護とライン-グランド間サージ保護を備えています。
これは、集積化アプローチで従来とはまったく異なるデバイス(設定可能なDI/DOモジュール)が可能になることの一例です。
結論
高密度のデジタル入力または出力モジュールの設計では、一定のチャネル密度を超えると、ディスクリートでの実装はあまり意味がないことが明らかになります。熱、信頼性、およびサイズに関する考慮から、集積化デバイスのオプションを慎重に検討する必要があります。
集積化されたDIまたはDOデバイスを選択する際は、堅牢な動作仕様、診断機能、および複数の入力-出力構成のサポートなどが、留意すべき重要なデータポイントになります。
参考文献
・ Maximアプリケーションノート「HOW TO SWITCH INDUCTIVE LOADS WITH DEMAGNETIZATION」
著者プロフィール
Shuhel Dhanani