名古屋大学(名大)は3月26日、砂糖(ショ糖、スクロース)の取り過ぎによって起こるメタボリックシンドロームへつながる脂質代謝異常(脂肪肝、高中性脂肪血症)が腸内環境の変化によるものであることを見出したと発表した。

同成果は、名大大学院 生命農学研究科の小田裕昭准教授らの研究チームによるもの。詳細は、オランダの科学雑誌「The Journal of Nutritional Biochemistry」に掲載された。

メタボリックシンドロームは、糖尿病などの生活習慣病の未病状態として知られている。健康診断において腹囲により判断されることから、肥満であることがメタボリックシンドロームとイコールに思われることが多い。しかし正確には、インスリンが効きにくくなる状態である「インスリン抵抗性」が基盤となっている。そのため、痩せていても脂肪肝によってメタボリックシンドロームが引き起こされることはあり、注意が必要である。

これまでメタボリックシンドロームの原因は、エネルギーの過剰摂取や動物性脂肪(飽和脂肪酸)の摂取のし過ぎが主要因と考えられてきた。ところが最近になって、ショ糖やスクロース(グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が結合した二糖類で、甘味料一般を指すものではない)などの砂糖や、甘味料の異性化糖(果糖ブドウ糖液糖)などのフルクトースを含む糖の取り過ぎが、主要因の1つであることが明らかにされた。このフルクトースは食材に元から含まれるものではないことから、あとから添加される糖の取り過ぎが問題と考えられている。

肥満は万病の元といわれ、そして世界的、とりわけ食糧事情のいい先進国において問題となっており、糖尿病も世界的に増加している。そのため、WHOが1日の砂糖の摂取量を、摂取エネルギーの5%未満に抑えるよう勧告を出している。これは、おおよそ小さじ6杯分の砂糖に相当し、かなり控える必要がある。

このように、結果的な観点からフルクトースの摂取を控えるべきとされるようになったが、実はフルクトースがどのようなメカニズムで脂質代謝異常を引き起こし、メタボリックシンドロームへとつながっていくのかはあまり明らかとなっていない。

教科書には半世紀前に得られた知見が今でも載せられており、肝臓にフルクトースが大量に流れ込むことが原因とされているが、小田准教授の研究チームをはじめ、世界中のさまざまな研究チームの研究により、それが間違いであり、もはや古いパラダイムであることが明らかにされている。小田准教授の研究チームでは、実験動物のラットを用いた研究により、肝臓や小腸の体内時計が変化するために脂質代謝異常が起こることを示してきた。

今回の研究では、ラットに炭水化物としてスターチを与えたグループと、ショ糖を与えたグループに分け、その盲腸の腸内細菌叢の調査が行われた。その結果、食べ過ぎたショ糖は大腸の腸内細菌叢を変化させることが明らかとなったのである。

ヒトをはじめ、生物の消化管には多くの微生物が棲んでおり、その中でも大腸には大量の細菌が棲んでおり、腸内細菌叢とは腸内の細菌全体のことをいう。この腸内細菌叢が、近年では健康に関わりがあり、もはや人体の一部のように考えられるようになってきている。

そして抗生物質を処理する実験から、この腸内細菌叢の変化が、肝臓に中性脂肪が溜まってしまう脂肪肝(肝硬変や肝がんに移行する危険性がある)や、高中性脂肪血症(血中に中性脂肪が溜まる高脂血症の一種)が抑制されることが判明。脂質代謝異常の原因が、腸内細菌叢の変化であることが究明されたのである。かつての知見であるフルクトースが肝臓に大量に流れ込むことが原因なのではなく、腸内細菌によって作られた何らかの因子が肝臓に作用し、脂質代謝異常を起こすことが明らかとなったのである。小田准教授らはこの成果に対し、これまでの砂糖による脂質代謝異常のメカニズムという考えを更新する、新たなパラダイムと考えられるとしている。

砂糖の取り過ぎによる脂質代謝異常から導かれるメタボリックシンドロームを予防する手段は、これまでその摂取を抑えるほかにはほぼないといっていい状態だった。それは作用メカニズムがほとんど明らかにされていなかったことが原因と考えられる。しかし、今回の成果から、腸内環境を整えることができれば、砂糖の取り過ぎによる脂質代謝異常やメタボリックシンドロームを予防できる可能性があり、食品成分による予防も可能になる可能性があるとしている。

  • メタボ

    砂糖の取り過ぎによる脂肪肝や高中性脂肪血症は、腸内細菌叢の変化を起こしており、それがメタボリックシンドロームにつながることが今回の判明した。また、痩せていてもメタボリックシンドロームと診断されることがあるが、その原因が腸内細菌叢の変化であることも明らかとなった (出所:名大プレスリリースPDF)