大阪大学(阪大)は3月25日、独自技術「テラヘルツ波放射顕微鏡」を用いることで、3次元回路の重要な要素となる「シリコン貫通電極(TSV)」の非接触・非破壊評価に成功したことを発表した。
同成果は、阪大 レーザー科学研究所の斗内政吉 教授、同・村上博成 准教授、同・芹田和則 特任助教、阪大大学院 工学研究科の村上史和 大学院生、ベルギーの研究機関imecのクリストフ・ヤコブ博士、同・エリック・ベイネ博士、京都大学 大学院 エネルギー科学研究科の川山巌 准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のエレクトロニクスを題材とした「Nature Electronics」に掲載された。
プロセスの微細化の物理的限界にともない、半導体の性能向上を2次元的なものから、積層による3次元化で実現しようという動きがでてきているが、その実現に重要となるのが上下の集積回路を接続する貫通電極であるTSVである。円柱状の空間の表面に絶縁層を形成して金属電極を埋め込むというもので、電極とシリコンの絶縁特性や導電特性の不良などが、集積回路の動作への影響が大きく影響することが考えられてきたが、TSVに対する非破壊・非接触の分析・評価技術はこれまでのところ、存在していなかったという。
そこで国際共同研究チームは今回、フェムト秒レーザーをTSV近くに照射することで発生するテラヘルツ波とその伝搬の観測から、TSVを非破壊・非接触で分析・評価することに成功した。
TSVは縦型の柱状構造で、シリコン、絶縁層、金属で構成されている。シリコンは表面近くで電界が自然に存在しており、光で励起された電子は内側に、正孔は絶縁層に向かって走る。このとき発生する電流で、テラヘルツ波が励起され、空間中に放射される仕組みだ。
また一部のテラヘルツ波は、シリコン内部へと伝搬するが、シリコンウェハの背面で反射され、帰ってきたテラヘルツ波も空間に放射されるという特徴がある。ここで、内部に侵入した方のテラヘルツ波は、時間が遅れて放射されるので、その時間の遅れを観測するとテラヘルツ波の伝搬の様子が観測されるという。
また、背面で反射されてきたテラヘルツ波は、ウェハの背面の金属層で反射したもので、この波形は最初の波形から反転したものであることから、この波形から伝搬の様子を知ることができ、ウェハの厚さなどもわかることも示され、テラヘルツ波放射顕微鏡によるTSVの非破壊・非接触での分析検査に有効であることが実証されたとしている。
なお、研究チームでは今後は高分解能化や、パルス幅の短いフェムト秒レーザーを用いることで、局所に、かつ高速に伝搬するテラヘルツ波の観測が可能となるとしており、それにより、1つひとつのTSV内部の分析も可能となるとしている。
また、今回示されたTSVの評価にとどまらず、半導体製造プロセスに非接触試験を可能にする統合計測ソリューションを提供することも期待されるようになるとしている。