横断歩道などで人々がぶつからずに歩けるのは、互いに動きを刻々と予期し合うことで、全体の秩序が生まれるためであることを実験で明らかにした、と京都工芸繊維大学などの研究グループが発表した。一部の人が注意をそらされると、影響が全体に及んだ。集団的意思決定や動物の群れの理解、ロボットやドローンの衝突回避などに役立つ成果という。
横断歩道や通路などで、人々は誰に指示されるでもなく、互いにぶつからず自然に行き交って歩く。これは魚や鳥の群れと同様に、秩序だった構造が集団全体で自律して生じる「自己組織化現象」だ。向かい合う歩行者の集団がすれ違う列を生む「レーン形成現象」はこの一例といわれる。
この仕組みに対しては従来、人がある時点の相手との距離を基に衝突を回避するという数理モデルが考えられてきた。ただ近年、群衆の動きの画像解析技術が高まるにつれ、このモデルで説明できない現象がみられるようになった。個々人は相手の未来の位置を予期するようだが、そのことの群衆全体への影響を実験で確かめられてはいなかった。
そこで研究グループは「予期が群集の自己組織化を促進する」との仮説を立てて実験。27人ずつの2つの集団を向かい合って歩かせた。このうち一方の集団の3人はスマートフォンで計算問題を解きながら歩くことで、周囲への注意を低下させた。
その結果、問題を解く人がいると、いない時に比べ、当人だけでなく集団全体の歩行速度が低下し、レーンの形成も遅れた。このことから、一部でも予期を阻害されると、集団の自己組織化に影響が生じることが分かった。
また問題を解く人には、向かい合う人に突っ込んでいくなどの動きが生じ、衝突直前に急に大きな方向転換をした。当人だけでなくその動きを予期できない相手や、同じ方向へと歩く人まで、急に大きな方向転換をした。問題を解く人がいない場合、この現象は起こらなかった。
こうした結果から、一部の歩行者が注意をそらすと当人だけでなく、周りの人の予期にも影響することが確かめられた。予期は双方向で行われる必要があり、また衝突の回避は協調的なもので、互いの予期が集団全体の秩序に関わっていると考えられる。
この成果により、人などが群集の中で互いに予期し合うことの重要性を確認。人の集団的意思決定、動物やロボットの群れなど、さまざまな自己組織化の研究に新たな視点をもたらすという。混雑や群衆の事故の防止、イベントや避難経路の計画などに生かせる可能性もある。
研究グループの京都工芸繊維大学情報工学・人間科学系の村上久助教(認知科学)は「今後は視線やしぐさなどの影響も考えたい。こうした研究を重ねれば、予期に基づいた群集の動きを扱う良い数理モデルを構築できる。ロボットやドローンの衝突回避などにも役立つかもしれない」と述べている。
研究グループは京都工芸繊維大学、長岡技術科学大学、東京大学で構成。成果は米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に18日掲載された。日本学術振興会科学研究費助成事業、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業、文部科学省卓越研究員事業の支援を受けた。
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