東北大学は3月25日、周産期の甲状腺ホルモン不足が脳の発達にどのような変化をもたらすかを調べるために、マウスを用いて「先天性甲状腺機能低下症」を実験的に再現した結果、自閉症や統合失調症の発症に関与するとされるいくつかの分子に変化が見られ、大脳皮質が全般的に層形成が貧しくなることを見出したと発表した。

同成果は、東北大大学院 情報科学研究科 情報生物学分野の内田克哉助教らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

生まれながらにして甲状腺ホルモンを合成する力が弱いと、先天性甲状腺機能低下症となり、脳や身体の発達が極度に遅れてしまうことが知られているが、現在では、治療法が確立されて薬によるコントロールが可能となっている。しかし、甲状腺ホルモン不足によって生じる知能障害のメカニズムについては、まだ十分に解明されていないという。

そこで内田助教らの研究チームは今回、甲状腺ホルモン不足が脳の発達にどのような変化をもたらすかを調べるために、マウスを用いて先天性甲状腺機能低下症を実験的に再現することにした。その結果、自閉症や統合失調症患者の死後脳で観察される「パルブアルブミンニューロン」の減少が、実験を行ったマウスの脳にも生じていることが判明したとする。

パルブアルブミン(PV)とは、カルシウムを結合する低分子のアルブミンの総称で、脳内では一部の抑制性神経細胞内に存在し、その神経細胞がPVニューロンと呼ばれ、興奮性神経細胞の活動を調節する役割を担っている。このPVニューロンの機能が変化すると、神経活動の律動的な動機に異常が生じることがわかっている。

また実験を行ったマウスの脳では、「レット症候群」(乳幼児期に症状が現れる神経発達障害で、ほとんどが女児に起こる)の責任分子である「MeCP2」や、神経細胞の突起などの形態を制御する転写因子「CUX1」の転写物が大脳皮質で減少していることも明らかとなった。

  • 甲状腺ホルモン不足

    甲状腺機能低下症個体に見られるMeCP2およびCUX1の発現の低下 (出所:東北大プレスリリースPDF)

  • 甲状腺ホルモン不足

    大脳皮質体性感覚野の厚みの比較。甲状腺機能低下症個体では、領域非依存的に大脳皮質の層形成が貧しいことがわかる (出所:東北大プレスリリースPDF)

変化が観察されたパルブアルブミン、MeCP2、CUX1はいずれも正常な脳機能維持には重要な分子であることから、先天性甲状腺機能低下症にみられる知能障害は、研究チームのような専門家らが想像していた以上に、複数の分子の機能不全によって生じる可能性が示唆されたという。

なお、研究チームでは今後、甲状腺機能低下症モデルマウスとほかの自閉症や統合失調症モデルマウスにおける共通・特長的な分子変化を探ることで、精神疾患発現の分子基盤解明に近づける可能性があり、今回の研究の発展が期待されるとしている。